年中鼻詰まりは要注意 蓄膿・不妊・気管支炎の意外な関係

鼻水、くしゃみは線毛が原因?
鼻水、くしゃみは線毛が原因?(C)日刊ゲンダイ

 花粉症で鼻水やくしゃみに苦しむ人が増えてきた。「体質的に花粉のアレルギー反応が強いせい」と思われがちだが、原因はそれだけとは限らない。インフルエンザや風邪などの呼吸器の感染症にもかかりやすく、年中、蓄膿症や中耳炎に悩まされ、喉が弱いという人は「線毛」に原因があるかもしれない。それは不妊症、うつ病、がんにも関わる可能性がある。元筑波大学医学部教授で、「和光駅前クリニック」(埼玉県和光市)の寺本信嗣医師に聞いた。

「人間は1日に2万リットルの空気を鼻や口から吸い込んでいますが、その中には花粉、ウイルス、細菌、ホコリなど多くの異物が含まれています。鼻や気管、気管支の役割は適度に暖かく湿ったきれいな空気を肺に送り込むこと。そのため、鼻や喉、気管支の粘膜表面にはびっしり毛が生えています。これが線毛です。四六時中、異物をキャッチし、外に追い出します」

 鼻で食い止められた異物は鼻クソとして、気管支まで侵入した異物は咽頭まで押し戻されて痰として、それより先なら食道に落ちるなどして処理される。線毛とは、細胞の表面に突出した細い毛で、気道の線毛運動の速さは1秒間に12~14回。肺の入り口までたどり着いた異物も30分ほどで体外に排出される。

「花粉症の場合、線毛機能が正常に働かずに排出されなかった花粉が、アレルギーのもとになる『抗原』と呼ばれるタンパク質を粘膜に浸透させます。その情報を異物と認識する細胞が、リンパ球のT細胞、B細胞に伝え、花粉に合う抗体がつくられる。抗体に花粉の抗原がくっつくと、脂肪細胞からヒスタミンやロイコトリエンと呼ばれる刺激物質が放出され、その反応で鼻水やくしゃみが出ます」

 この状態が繰り返されると、粘膜上皮に好酸球が増えて細胞が傷つく。そこに細菌やウイルスの感染が重なり、蓄膿症(副鼻腔炎)や気管支拡張症が生じる。

「逆に言えば、年中こうした病気を患う人は『線毛異常』の可能性があります」

■うつ病、めまい、がんとの関わりも?

 問題は、この線毛が鼻や気管や気管支以外にも、耳管、卵管、精子、脳、腎臓などに備わり、重要な役割を担っていることだ。

「線毛には動くものと動かないものがあり、前者は、たとえば卵管では生理のときに卵子を排出し、受精卵を子宮に送り込む手助けをする。精子は鞭毛として卵子に向かって遊泳するときのスクリューとなります」

 動かない線毛は、脳ではセロトニンなどの神経伝達物質のレセプターとして、内耳では平衡感覚を保つため、嗅細胞ではニオイの受容体としての役割を担っている。つまり、線毛の機能異常は、たとえば女性は生理不順や子宮外妊娠、男性は男性不妊、ほかにうつ病やめまいなどのリスクを上げる可能性がある。また、細胞周期にも関係するため、がんにも関係する。しかも、鼻や気道の線毛運動に問題がある人は、他の線毛の動きも悪くなる傾向にあるから厄介だ。

 では、どんな人が線毛症になるのか? ひとつは染色体異常などにより生まれながら線毛機能に異常がある原発性線毛運動不全症(PCD)のケースだ。

「完全な不動線毛や微弱な線毛運動、協調性のない線毛運動などさまざまな症状が起きます。共通するのは、幼少期から慢性の気道感染症に悩まされていることです」

 PCDの患者の約半分は、左にあるべき心臓が右になったり、臓器の配列が乱れたりする。内臓逆位だ。胎児の初期段階でノード線毛が正しく動かず、タンパク質をコードする遺伝子を狂わせて臓器の発生の順番などが乱れることで起きる。

「気管支拡張症、副鼻腔炎、内臓逆位を特徴とするカルタゲナー症候群は、内臓逆位を伴うPCDといわれています」

 妊娠初期の飲酒も関係するとの疑いもあるが、ハッキリしたことはわかっていない。

 線毛症は、喫煙、慢性気管支炎、インフルエンザウイルスを含むウイルス感染症が引き金となる場合もある。

「PCDでも60歳手前まで気付かない人もいます。粘液線毛機能を調べる検査はサッカリン法、アイソトープを使った方法で、形態的検査として電子顕微鏡を用いた検査があります。PCDの診断には遺伝子検査が必要です。ただ、いずれも日本では一般的には行われず、普及が望まれます」

 ちなみに、線毛運動には適度の湿り気が必要となる。加湿器やマスクで鼻を覆うことは、その助けになる。覚えておこう。

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