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大腸がん新知見 原発病巣は右より左の方が生存期間が長い

砂川優准教授
砂川優准教授(C)日刊ゲンダイ
砂川優准教授 聖マリアンナ医科大学病院・腫瘍内科(神奈川県・川崎市)

 進行性大腸がんは、がんの原発病巣が右(盲腸、上行結腸、横行結腸)か左(下行結腸、S状結腸、直腸)かで、予後も効く薬も違う――。

 そんな大規模な解析結果が2016年に、米国とヨーロッパで報告され、日本人医師グループによる研究でも「大腸がんの左右差」が確認されている。

 当時、昭和大学横浜市北部病院腫瘍内科講師で、日本人110例の解析を行った砂川優医師(顔写真)が言う。

「欧米の2つの研究で、『進行性大腸がんは、予後は右が悪く、抗EGFR抗体は左に効きやすい』ことが世界のコンセンサスになりました。私たちの抗EGFR抗体を使った研究でも、左の方が右に比べて生存期間中央値が約23カ月長い結果になりました」

■右側だと最初から「4剤併用療法」も

 大腸がんの薬物療法の1次治療は「3剤併用療法」が標準になる。薬の組み合わせは、①「5FU」②「イリノテカン」または「オキサリプラチン」③分子標的薬の「抗VEGF抗体」または「抗EGFR抗体」。分子標的薬は「RAS(ラス)遺伝子検査」を行い、RAS遺伝子に変異がない場合には抗EGFR抗体の効果が期待できるという。

 従来は2つの分子標的薬の有効性に有意差はないとされていたことから、どちらを先に使うかは各医師の判断で決めていた。それが有効性に左右差があることが分かったことで、薬の選択がよりクリアになったという。

「大腸がんは他のがんと異なり、ステージⅣで転移していても病巣を切除できれば、予後が極めて長く延びるケースが少なくありません。ですから薬物療法の1次治療でがんをかなり縮小できれば、手術で切除できる場合があります。そのためにも大腸がんの左右差は非常に有用な情報です。RAS遺伝子に変異のない左側の大腸がんであれば、ステージⅣでも長期生存を目指せるのです」

 また、右側の大腸がんは予後が悪いことが分かっているので、最近は1次治療から最強の治療といわれる「4剤併用療法」を行う医師が増えてきているという。

 しかし、なぜ大腸がんには左右差があるのか。そもそも大腸は発生学的にも右大腸は「中腸系」、左大腸は「後腸系」と異なる由来を持ち、支配する血管も違うとされる。

「世界的にも左と右では、がん化の過程が違うという認識です。がんは遺伝子変異の塊ですが、その遺伝子変異の種類や仕方が違うということです。右原発巣では予後不良と関連がある遺伝子の変異頻度が高く、左原発巣では抗EGFR抗体の感受性に関する遺伝子の発現頻度が高いことが示されています」

 国内外の研究機関を含め砂川医師らが行っている研究は、さらに続いている。「左右差」というザックリした区分での有意差しか分かっていないからだ。

「例えば、同じ左大腸でも下行結腸とS状結腸では差があるのか。最近の研究データでは、やはり違いがあるのではないかという報告が出てきています。そのバイオマーカーとしての遺伝子の違いを調べています」

 並行して、胃がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果効能の違いなども研究しているという。

▽東京都出身。2003年日本医科大学卒。埼玉医科大学国際医療センター、昭和大学横浜市北部病院などに勤務後、13年に米・南カリフォルニア大学に留学。17年から現職。〈所属学会〉日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本癌治療学会がん治療認定医、日本臨床腫瘍学会指導医など。

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