前立腺がんは、全てのがんの中で最も増加率が高い。この前立腺がんのリスクを高めるのが肥満だ。
独協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授の井手久満医師によれば、肥満度を示すBMIが高いほど前立腺がんの発症リスクが高く、前立腺がんの悪性度が高いため予後が悪い。
特に要注意は、肥満の人にありがちな高コレステロールだ。
「コレステロール値が高い人は、前立腺がんが発見された時点で転移がたくさん見られます」
コレステロールは前立腺の細胞組織に多く蓄積されており、男性ホルモンであるテストステロンの“原材料”だ。つまりコレステロールが多い人ほど、テストステロンが多い。
前立腺がん細胞はテストステロンの量に依存して増殖するが、かつてはテストステロンは精巣と副腎で合成されてから前立腺に運ばれ、それによって前立腺がんの発症リスクを高めると考えられていた。
「ところが近年、前立腺がんの細胞自身が前立腺内でテストステロンを作り出し、それを自ら消費して増殖していくことが分かってきました。いわば“地産地消”です」
「前立腺のコレステロールが多い→テストステロンが増える→前立腺がん細胞増殖→テストステロンが増え、がん細胞もより増える」という流れだ。
なお、前立腺がんは血中のテストステロンが「少ない」ほど悪性のがんの発症リスクが高まる。矛盾を感じるが、井手医師によれば血中と前立腺組織のテストステロン産生は反比例の関係にある。
■食生活改善と運動だけで進行を抑制
いずれにしろ、コレステロールが低い生活(血中のテストステロン値が高く、前立腺細胞内のテストステロン値が低い生活)が、前立腺がん対策になるのは間違いない。
「前立腺がん患者が生活習慣を変えるとどうなるか調べた研究があります。おとなしい前立腺がんの患者93人を対象に、一方の群は徹底した食生活改善と運動を取り入れ、もう一方の群はそれまで通りの生活を2年間続けました」
結果、「食生活改善+運動」群は5%の人しか新たな治療が必要にならなかった。ところが「それまで通りの生活」群は、27%の人が新たな治療が必要になった。ここから分かるのは「食生活改善+運動で前立腺がんの進行を抑えられた」ということだ。
何をどう食べ、どういった運動をどれくらい行えばいいかは、まだ分かっていない。
「ただ、トマト、ブロッコリー、大豆、ウコン、コーヒーにそれぞれ含まれる抗酸化成分は前立腺がん対策に役立つというエビデンスがあります」
このひとつ、ウコンの抗酸化成分クルクミンについて井手医師は研究中だが、クルクミンの吸収率を高めたサプリメント(市販品)を前立腺がんの患者に投与したところ、前立腺がん細胞のアポトーシス(自殺的に脱落死する現象)が多かった。特殊な酵素を通してクルクミンが前立腺がんの細胞に到達し、そのような効果をもたらしているのだとみている。
また、クルクミンのサプリを服用した人はホルモン療法を経て手術を受けた後のPSA上昇が有意に抑えられた。これらの結果は解析を加え研究論文として発表予定だ。
ウコンはカレーに含まれる成分。今日からカレー、トマト&ブロッコリーサラダ、豆腐や豆乳、コーヒーを積極的に取るか。