重大病を引き起こすことも くしゃみを我慢してはいけない

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 春はくしゃみの季節。風で花粉やほこりが舞い、風邪やインフルエンザのウイルスが空気中を漂い異物が鼻に入りやすい。くしゃみは大量の唾やウイルスを飛ばし、静寂を破る。それを嫌って、自分の口や鼻を完全に覆ってくしゃみをする人がいるが、用心した方がいい。衝撃で、圧迫骨折、鼓膜破裂、脳動脈瘤破裂などの重大病を引き起こすことがある。

 くしゃみは鼻に侵入した異物を取り除くための反射動作。鼻の粘膜に付着した異物が神経を刺激して、肺と腹部の間の横隔膜が収縮、息を吸い込んで一気に異物を吹き飛ばす。

 その速度は、かつては時速300キロ以上といわれたが、ハイスピードビジョンシステムを用いた測定では、最大で時速25キロであることが分かっている。

 その衝撃は強烈で、脳と脊髄を覆う硬膜に穴が開いて、その中の脊髄液が漏れる「脳脊髄液減少症」や「硬膜下血腫」などにつながったケースが報告されている。骨折も多いという。

「骨がもろくなりがちな高齢者や若い女性の中には、くしゃみで脊椎圧迫骨折する人もいます」

 こう言うのは、日本整形外科学会認定専門医で「みずい整形外科」(東京・目黒)の水井睦院長だ。脊椎圧迫骨折とは、外傷や椎骨の衰弱が原因で起きる脊椎の骨折のこと。首回りの頚椎圧迫骨折、胸椎が骨折する胸椎圧迫骨折、腰椎が骨折する腰椎圧迫骨折の3種類ある。

「くしゃみで骨折しやすいのは12番目の胸椎とそれに連なる1番腰椎です。湾曲した背骨の頂上付近の力学的に負荷がかかりやすい場所です」(水井院長)

 骨折すると、動けないほどの激しい痛みが起きる。骨折の破片が脊柱の内部に入り込み神経を刺激してしびれやマヒを起こすこともある。

 しかし、糖尿病などで神経障害がある人や高齢者の中には、痛みをさほど感じない人もいる。

「『背中が曲がっている』と他人に指摘されたり、『背が縮んで洗濯物が干せなくなった』ことで、初めて骨折に気がつく人もいます。骨折したままにしておくと、背骨のバランスが悪くなり、他の骨への負担が大きくなる。背骨が折れると、1年以内に次の骨折が起こる確率が高くなるという研究報告もあります」(水井院長)

 圧迫骨折が怖いのは、内臓の病気が続くリスクが高まることだ。

「骨折で前かがみの姿勢になると肺や心臓、内臓などが圧迫されます。肺活量や心臓の機能低下により、疲れやすくなり、心不全のリスクが高まる。胃や食道が圧迫され、物が食べられなくなり、胃液が食道に逆流する『逆流性食道炎』になる人もいます」(水井院長)

 口や鼻を覆ってくしゃみを遮ると、さらに危険だ。上気道への圧力は通常のくしゃみの5~24倍になるとの報告もある。

 実際、英国の医学雑誌「BMJ」は鼻と口を覆ってくしゃみを抑えようとした34歳の男性が、咽喉の後ろにある梨状窩という部分に穴を開けたとの症例報告を掲載した。

「鼻をつまんでくしゃみをして耳の中を傷つけ、外リンパ液が中耳に漏れて聴覚や平衡障害を起こす子供も珍しくありません」(慶友銀座クリニック・大場俊彦院長)

■血圧を上昇させ、目にもダメージ

 くしゃみは血圧も上昇させる。

 秋田県立脳血管研究センターが高血圧の人を対象にした調査では、平均48㎜Hg上昇させた。これは咳(81㎜Hg)や和式での排便(77㎜Hg)に及ばないが、喫煙(38㎜Hg)を上回る。

 脳神経外科の専門医で「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・港区)の福永篤志医師が言う。

「突然死を招く重大病として知られる『くも膜下出血』最大の原因は脳動脈瘤の破裂です。その発生時の状況を調べた研究では咳が7番目に挙げられており、くしゃみはありません。しかしこれは単発のくしゃみに比べて連続して出る咳の方が血圧上昇が高いからでしょう。連続して出るくしゃみの場合は、咳並みに警戒する必要があるのかもしれません」

 先に紹介した医学雑誌「BMJ」も脳動脈瘤破裂などへの警戒を呼び掛けている。

 目へのダメージも侮れない。「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長が言う。

「くしゃみで白目が鮮やかに赤くなるのは静脈圧が高まり、網膜下の血管が破綻した結膜下出血の場合です。また、くしゃみをしたときに飛蚊症が起きて、調べてみたら網膜剥離や硝子体出血が見つかったというケースもあります」

 くしゃみを止める方法はよく話題になるが、必ず止める方法などないし、止めるのは危険だ。せいぜいくしゃみをするときは口や鼻を軽く覆って、人のいない方向にすることに努めることだ。

関連記事