健康格差は年収格差

葛飾vs千代田 景気と平均所得・平均寿命格差の関係

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 東京23区で、港区に次いでリッチなのが千代田区(2013年の平均所得784万円)と渋谷区(同703万円)です。普通のサラリーマンにとっては、働く場所であっても住む土地ではありません。そんな両区の平均所得は、過去において港区とほとんど同じ動きを示してきました。1980年代から90年代初頭のバブル期に急上昇し、バブル崩壊とともに急落。その後は90年代を通して横ばい状態だったのが、2000年ごろからITバブルに乗って再び上昇に転じ、08年のリーマン・ショックを境に急落――といったお決まりのパターンを描いています。 

 一方、平均所得が足立区に次いで少ないのが葛飾区(同333万円)と北区(同344万円)。「寅さん」や「こち亀」で有名なのが葛飾区、埼京線の十条駅や赤羽駅があるのが北区です。両区ともITバブルの恩恵を受けることはほとんどなく、足立区と同様、91年をピークに平均所得が緩やかに減少の一途をたどっています。

 これら4区の平均寿命の推移は、足立区・港区とよく似たパターンを示しています。〈表〉は4区の男性平均寿命をまとめたものです。葛飾区も北区も、所得の減少と逆行して寿命が着実に延び続けています。どちらも5年で1歳以上の割合で延びているのです。

 一方、千代田区は00年から05年にかけては1・8歳も延ばしたものの、05年から10年の5年間の延びはペースダウン。また渋谷区は05年から10年にかけて、完全に停滞しています。足立区、葛飾区、北区など低所得区では、平均年収は景気の変動を受けにくく、緩やかにしか変化しません。にもかかわらず、平均寿命は着実に延び続けているのです。ところが港区、千代田区、渋谷区といった高所得区は、年収も寿命も景気の影響をもろに受けています。つまり、景気上昇局面では収入格差も寿命格差も広がり、景気が後退すると両格差とも縮小されるのです。

 もちろん、各年の平均寿命を比べれば、高所得区のほうが1~2歳長くなっているので、その意味で所得と寿命は関係しているといえるかもしれません。しかし高所得区の住民の健康は、景気に左右されている可能性があります。それが幸福かどうかは、各人の価値観によります。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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