Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

社員のがん先進治療に500万円 新浪流経営者が患者を救う

サントリーHDの新浪社長(右)と筆者
サントリーHDの新浪社長(右)と筆者(提供写真)

 サントリーHDの取り組みが話題を呼んでいます。がんにかかったグループ社員が、保険が適用されないがん先進医療を受けた場合、1人当たり最大500万円を支援すると報じられました。働き方改革を進めて残業代を削減。その浮いた資金が、がんの医療費補助の原資で、4月からスタートするそうです。

 画期的なプランを打ち出したのは、同社の新浪剛史社長。新浪さんとはローソンの社長時代に知り合い、東大病院にお招きしたり、私がローソンで講演したりした関係です。

 新浪さんはがんへの理解が深く、その功績でローソンのがん対策が進んだといっても過言ではありません。部下のがん検診受診率が上司のボーナス査定に影響するような仕組みを取り入れ、がんの早期発見、早期治療の道筋をつけたのです。そんな方ですから、今回の報道も私は「新浪さんらしい」と感じました。

 実は今、新浪さんのような経営者が強く求められています。なぜかというと、経営者のがんの理解度によって、社員のがん検診受診率に大きな差があることが分かってきたのです。

 調査は昨年12月に行われました。細かい設問は割愛しますが、がんに関する12の質問で、企業や個人のがん理解度をチェック。それとがん対策の実情を比較しました。

 その結果、理解度の高い企業は、低い企業に比べてがん検診の実施率が高く、胃がんは58.0%対50.8%、肺がんは44.0%対20.0%。大腸がんに至っては、高理解度企業が低理解度企業を22.7ポイントも上回る62.7%です。

 女性のがんの子宮頚がんと乳がんについても同様で、それぞれ高理解度企業は低理解度企業より10ポイント、19.5ポイントも高いのです。

 経営者の理解度が高いと当然、就労支援も広がります。勤務時間変更は高理解度企業が42.7%で実施していますが、低理解度企業は21.7%。傷病休暇制度の実施は、低理解度企業のダブルスコア以上の58%です。

 年間約100万人が新たにがんになりますが、そのうち3分の1が働く世代。65歳までに男女とも15%の確率でがんを発症し、会社員の死亡原因は、およそ半数ががんです。高齢化や定年延長などが相まって、働く世代でがんになるケースが増えているのです。

 20~64歳でがんにかかった人は2000年に約19万1000人でしたが、10年には28万2000人と急増しています。そんな時代ですから、今後10年間でがんと診断される社員数は、従業員50人規模で2.2人、1000人規模だと44人に上ります。

 これだけ社員の労働力がダウンすると、人手不足の今、かなり痛手でしょう。新浪さんのような経営者が求められるのは、時代の必然です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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