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食道がんのロボット手術 出血と合併症が3分の1に

立花慎吾講師
立花慎吾講師(C)日刊ゲンダイ
立花慎吾講師 東京医科大学病院・消火器外科(東京都新宿区)

 これまで「前立腺がん」と「腎がん」でしか保険適用にならなかった「ロボット支援下内視鏡手術(ダビンチ手術)」が、2018年度から「胃がん」「肺がん」「直腸がん」など新たに12の術式について保険適用が一挙に拡大する。患者にとってメリットが大きいと注目されているのが、高難易度手術のひとつ「食道がん」。同院では、2010年から臨床試験として最大月1回ペースで食道がんのダビンチ手術を行い、症例数(今年2月時点で65例)は全国でもトップクラスに入る。食道がんのダビンチ手術を担当する立花慎吾講師(顔写真)が言う。

「食道は前には肋骨と気管、後ろには背骨があり、周囲は肺、大動脈、心臓といった大事な臓器に囲まれています。ですから開胸手術は大手術になります。それが胸腔鏡・腹腔鏡を使った鏡視下手術により患者さんの侵襲や負担は半減しました。ダビンチの登場により鏡視下手術と変わらない患者さんへの負担が少ない手術が、より安全に、より緻密にできるようになったのです」

 食道がんのダビンチ手術は、患者は手術台にうつぶせに寝て、バンザイした姿勢で行う(施設によって異なる)。

 右側の脇下に5~12ミリの孔を5つ開け、そこから鉗子や内視鏡の付いたロボットアームを挿入し、術者がモニターを見ながら遠隔操作して手術をする。

■ダビンチ手術は最も患者に優しい術式

 最大の特徴は、鉗子が7つの関節可動域を持っており、内視鏡の手術視野も3D画像で拡大もできること。食道周囲に豊富にあるリンパ節の郭清も狭い空間であってもキッチリできる。

「ダビンチ手術の手術時間は8~9時間で、入院期間は2~3週間と、従来の鏡視下手術と大きな差はありません。しかし、手術中の出血量や術後合併症の発生確率でいえばダビンチ手術の方が勝っています」

 同院の平均データで比較すると、鏡視下手術では出血量が85.6㏄、反回神経マヒ(一時的に声がかれる)が12%、縫合不全が18%。一方、ダビンチ手術では出血量が27.5㏄、反回神経マヒが8.4%、縫合不全が5.5%。もちろん手術関連死などの重大事象は、どちらもゼロだ。

 むろん、病院内の倫理委員会の承認を得て、条件に適合した患者を対象としたダビンチ手術と、一般の患者を対象とした鏡視下手術の成績を単純に比べることはできない。しかし、その正確性にはメリットがありそうだ。

 食道がんではダビンチ手術が最も患者に優しい術式といえるが、すべての患者に適応になるわけではない。同院の昨年の食道がん手術の内訳は、開胸手術が26例、鏡視下手術が8例、ダビンチ手術が8例(実施数に制限あり)だ。

「食道は大ざっぱに言うと内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜に分かれていて、がんの広がりが大きい場合は、鏡視下手術やダビンチ手術は向いていません。基本的にダビンチ手術の対象となるのは、がんの広がりが固有筋層までの『T2』。ただし、食道外膜に広がる『T3』でも化学療法でがんが縮小できれば適応になる場合もあります」

 国内では237台(16年9月末現在)のダビンチが導入されているが、食道がんが保険適用になっても実施できる医療機関は限られる。それは胃がんや大腸がんなどに比べて食道がんの患者数は少なく、術式問わず月間2例の手術を行っていれば多い方だからだ。そういう意味では、定期的に食道がんのダビンチ手術を行い精通する医師は希少な存在だ。

▽埼玉県出身。1995年東京医科大学医学部卒。戸田中央総合病院、愛知県がんセンター中央病院などの勤務を経て、2011年から現職。〈所属学会〉日本外科学会、日本内視鏡外科学会、日本食道学会、日本ロボット外科学会など。

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