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「あと1年の命」が2年ももった。もういいでしょう? 担当医の言葉に愕然

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 あと1年の命と告知された患者さんが、2年生きられたからもういいだろう……そうでしょうか? 「1年の命」というのは単に過去の統計データであって、その患者さん自身に当てはまるわけではありません。

 1年たっても2年たっても、過ぎてしまえばさらに生きたい気持ちになるのは当たり前のことだと思います。

 過ぎた過去は過去。本人にとってはそれがリセットされて今があり、そして「これからの命」もあるのです。

 ましてAさんは今はとても元気そうです。「2年もったからもういいでしょう」という言葉は、Aさんにしてみれば、自分の命は「捨てられた命」で、そう言われているのと同じことだと感じたのです。今のAさんには生きる希望が必要です。

 ずっと黙っていた息子さんは、Aさんが一通り話し終わると、「2年生きられたからもういいでしょう? なんて、担当医が患者に言う言葉でしょうか」と怒りをあらわにしていました。それも当然でしょう。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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