がんと向き合い生きていく

「あと1年の命」が2年ももった。もういいでしょう? 担当医の言葉に愕然

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■生きたいという思いを剥ぎ取ってはいけない

 セカンドオピニオンが終わって部屋に帰った私は、ある大学で心理学を教えている女性教授のBさんを思い出しました。Bさんは胃がんが進行して全く食べることができなくなり、心臓の近くの血管に挿入したチューブで高濃度の栄養を投与する中心静脈栄養の袋をカバンに入れたまま私を訪ねて来られました。

 Bさんは「もう治療法はなく、あと2、3カ月の命と告げられた後に本を書き上げました。この1、2カ月が人生で最も充実した期間でした」と口にした後、「これからも仕事を続けたい。だから、がんの新薬の開発状況を時々、聞きに来たい」と話されました。

 私は、「メールがあるので、わざわざ来られなくても新しい治療法が出た時に連絡しますよ」と答えました。しかし、Bさんは「いえ、来ます。2、3カ月たったら、また来させて下さい」とおっしゃいます。そんなBさんを見て、私はとても強い「生きる意欲」を感じました。そして「生きたいという思い」を人から剥ぎ取ってしまうようなことは、誰もしてはならないのだと思わされました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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