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CAR-T細胞療法 細胞を“とって増やして戻す”新がん治療法

吉村清医長
吉村清医長(C)日刊ゲンダイ
吉村清医長 国立がん研究センター中央病院・先端医療科(東京・築地)

 がん免疫療法は「免疫チェックポイント阻害剤」の登場で、「手術」「抗がん剤」「放射線」と並ぶがん治療の“第4の柱”となった。そして、次なるがん免疫療法の主役級として注目されているのが「CAR―T(カーティー)細胞療法」だ。

 がん患者の体内から免疫細胞(T細胞)を取り出し、遺伝子操作して攻撃力を高めて体内に戻す新たな免疫療法。昨年8月、米国で世界に先駆けて一部の白血病を対象に承認されている。

 国内でもいくつかの大学を中心とした研究機関が臨床研究を始めているが、ほとんどが“血液がん”を対象としたもの。そんな中で、山口大学が主となって国立がん研究センターと共同で研究を進めているのが“固形がん”に対する次世代型CAR―T細胞療法の開発だ。同センター中央病院で研究を担当する先端医療科の吉村清医長が言う。

「現状のCAR―T細胞療法は、急性リンパ性白血病のような血液がんには極めて有効ですが、固形がんの有効性は得られていません。それは血液がんでは細胞の表面に現れる『CD19』という抗原を攻撃対象として認識するようにT細胞を遺伝子操作するのですが、固形がんはがん組織の不均一性が高く、大部分のがん細胞に共通して発現している抗原が見つけにくいからです」

■次世代系を開発

 もう1つ、血液がんと違ってCAR―T細胞療法が効きにくい理由は、固形がんはがん組織のかたまりだからだ。遺伝子操作して培養し、増やしたCAR―T細胞は点滴で静脈投与する。血液がんであれば簡単にがん細胞を攻撃できるが、固形がんではがんのある場所に到達した上で浸潤し、がん細胞を攻撃しなくてはいけない。

 これらの問題をクリアするために世界各国の研究機関がしのぎを削っている。海外では、肺がん、胃がん、大腸がん、すい臓がんなどの固形がんに対する研究が進められているが、その見通しは立っていないのが現状だ。その一方で「数年後には第2相くらいまで臨床試験を進めて産業化にメドをつけたい」と吉村医長は強い希望を持っている。

「次世代型CAR―T療法の開発は山口大学の基盤技術から急速に進んでいて、産業化への出口戦略としてバイオベンチャー企業も立ち上げています。昨年には国内の大手製薬会社との提携契約も結んでいます。我々もCAR―Tに即した新規標的を探索し、サポートしたいと考えています」

 基盤技術とは、免疫にかかわる細胞間の情報を伝達する「サイトカイン」や「ケモカイン」といった物質を産生する能力をもつCAR―T細胞を作製する技術。この免疫細胞を使うことで固形がんに対して優れた反応性を示し、増殖能や遊走能の向上も確認できているという。あとはがん種ごとの標的となる抗原を見つけることが必要だが、技術的にはそれほど難しくはないという。

 ところで、米国で承認されたCAR―T細胞療法の薬価は、日本円で5000万円以上と高額なことでも話題になっている。次世代型が開発されてもやはり高額になるのか。

「承認されて当面は高額になると思いますが、普及する時代がくれば安くなる可能性はあります。それも迅速に国内で産業化できるかどうかが大きく関係するでしょう」

 山口大学の玉田耕治教授らの研究チームが、固形がんの治療に効果を示す次世代型CAR―T細胞療法を開発したことを3月5日付の米科学誌ネイチャーバイオテクノロジー電子版に発表した。がん細胞を移植したマウスで確かめたところ、ほぼすべてでがんが完全に消失したという。

▽1993年山口大学医学部卒。米国ジョンズ・ホプキンス大学、山口大学医学部などの腫瘍科や外科勤務を経て、2014年から現職。先端医療開発センター・免疫療法開発分野(築地)の分野長を兼務。〈所属学会〉米国癌学会、日本消化器外科学会、日本がん免疫学会など。

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