「20歳以前の除菌は有益」 ピロリ菌専門医が提唱する根拠

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 EXILEの弟分「FANTASTICS」の中尾翔太さんが胃がんを公表。胃がんは40歳以上で罹患率が高くなるといわれるが、彼は21歳だ。日本ヘリコバクター学会専門医で南毛利内科院長の内山順造医師に聞いた。

「本来は罹患率が低い20~40歳未満の若年性の胃がんを減らすために、知っておいてもらいたいことがあります」

 内山医師は、厚木医師会理事、神奈川県医師会公衆衛生委員も務める。その立場で今進めているのが、中学生のピロリ菌検査だ。過去2年間で、厚木市内の中学2年生を対象に希望者を募り、341人に尿検査によるピロリ菌検査を行った。

 すると、3%に感染者が見つかった。ほぼ全員が親、子供ともにピロリ菌除菌治療を希望。除菌に成功している。

 2013年以降、中学生のピロリ菌検査と除菌治療を行う自治体が増えている。日本ヘリコバクター学会がガイドラインで「年齢が低いうちに除菌できれば将来の胃がん発症を防げる可能性が高い」としているからだ。 一方、日本小児栄養消化器肝臓学会は一連の動きを「推奨しない」。海外のガイドラインでは推奨していないことが根拠。ただし、家族の希望があった場合は十分な説明の上、主治医の責任で実施可能としている。

 それでも内山医師が中学生のピロリ菌検査や除菌治療にこだわるのは「若年性胃がんの原因の多くはピロリ菌」と読み取れる結果があるからだ。

「胃がんには分化型と、スキルス胃がんといわれる未分化型があります。未分化型は進行が速く悪性度が高い。そして若年性胃がんでは未分化型が多い。国内での研究で、未分化型、分化型ともに9割の人にピロリ菌感染が見られました」

■親が感染しているなら子供も

 成人では、ピロリ菌が胃がんの原因で除菌が胃がん予防に有効というエビデンスが出ている。しかし若年性では、胃がん患者の数が少ないこともあり除菌が有効とのエビデンスは出ていない。

「しかし40歳以上と同様に高率でピロリ菌感染者がいることを考えると、40歳未満の若年性もピロリ菌と胃がんを切り離しては考えられません」

 かつ、40歳以上では胃がん検診を受ける機会があるが、40歳未満ではそういった機会が乏しく、「症状があるので病院に行ったら進行がんだった」となりかねない。さらに、若年性はスキルス胃がんが多いので、見つかった時点で手遅れということもある。

「早期に除菌治療を受ければ若年性胃がんのリスクが下がるというエビデンスはまだない。しかし、大きなリスク要因となるピロリ菌を、胃がんのリスクがある20歳より前に除菌しておくことは、さまざまな状況から鑑みて、かなり有益だと考えています」 

 内山医師はすべての中学生にピロリ菌検査を勧めているのではない。提案するのは、「親がピロリ菌に感染しているなら、子供も検査を」。 

 昔は公衆衛生の悪さからピロリ菌感染が起こったが、現在の若年者のピロリ菌感染はほぼ、乳幼児期に親から子供へ口移しで食べさせたこと。

「親がピロリ菌に感染していたら子供もその可能性があります」

 もちろん、祖父母に育てられた経験がある場合は、祖父母のピロリ菌感染も要チェックだ。

 もしピロリ菌感染がわかったら、ピロリ菌除菌治療は副作用もあるので、それを理解した上で検討だ。未成年にピロリ菌検査だけを行うことは保険適用外。内山医師のところでは、検査を2000円、除菌治療を1万5000円で行う。

 なお、厚木市で341人中の3%が除菌治療を受けたところ、副作用(薬疹)が出たのは1人だった。

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