厚労省のワーキンググループが高齢者に適正に医薬品を使うための初の指針案をまとめたが、高齢者に限らず「薬を減らしたい・やめたい」と思っている人は多いだろう。生活習慣病の薬との付き合い方を、茅ケ崎メディカルクリニック・柘植俊直院長に聞いた。
処方する薬で飲んではいけない薬はない――。これが柘植院長の基本的な考え。とはいえ、薬の量は最小限であるべき。柘植院長が実施している方法は次の通り。
■高血圧
「何が血圧を高くしているのか? 問診や検査で原因を探ります」
高血圧には、原因がはっきりしている「二次性高血圧」と、原因が絞り込めない「本態性高血圧」がある。
二次性高血圧の除外が重要で、多いのが睡眠時無呼吸症候群(SAS)。SASによる4年後の高血圧発症リスクは健常者の2・9倍とのデータもある。
「見逃されがちなのが、飲酒した夜だけSASがひどくなるケース。酒の飲み方を変え、眠りの質をよくすることで“今すぐ薬”とならない場合もあります」
数ある降圧薬の中で、最初にチョイスするのはCa拮抗薬だ。血管拡張作用が強く、安定した効果が得られる。“嫌な副作用”がなく、臓器障害を併発している高齢者にもよい効き方をする。
「血圧の下がり方を見て、薬の追加を考えます。最初から2剤、3剤と出すことはありません」
■糖尿病
新薬が続々と出ているのが糖尿病だ。
「糖尿病薬を選ぶポイントは、低血糖を起こしにくく、太りにくい。低血糖の死亡例も報告されており、高血糖より怖いと考えています」
従来から日本の医療現場でよく使われていた薬がSU薬。
血糖降下作用が強いものの、低血糖を起こしやすく太りやすい。長期間使い続ければインスリンの分泌が悪くなる。
「そのためSU薬の処方には注意が必要です。特に、他の糖尿病薬との併用は低血糖のリスクを高めるので要注意」
古い薬だが、近年改めて評価が高まっているのが、インスリン抵抗性改善薬ビグアナイド。
「低血糖を起こしにくく太りにくい。膵臓にも負担をかけません」
■脂質異常症
「LDLコレステロールが高い人に効く『スタチン』と、中性脂肪が高い人に効く『フィブラート系』の併用は、原則的に私はしないようにしています。横紋筋融解症という副作用が生じやすくなるからです」
ただし、脂質異常症でLDLコレステロールが高い場合、薬を使わないと数値が下がりづらい。スタチンは投与するが、中性脂肪に関しては、まずは食生活改善で対処する。
「脂質異常症は基準値を超えれば必ず薬、とはいえない側面があります。たとえば、LDLコレステロールと中性脂肪の両方が高ければ、心血管障害のリスクがより高い“超悪玉”と捉え、すぐに薬物治療を開始すべき」
しかし、喫煙習慣やほかの生活習慣病がないなど、心血管疾患のリスクが少ない患者さんでは、基準値を超えていても薬がまだ不要の場合がある。
■痛風・高尿酸血症
尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の2タイプの薬がある。
「尿酸排泄促進薬のうちベンズブロマロンは効き目が強く、日本ではよく使われている薬です。しかし重篤な肝障害の報告があります。また尿路結石ができやすいということもあり、こちらを選択する場合は、少量から使い始めます」
痛風発作を一度でも起こしたら薬はマスト。発作前は患者の状態によってまちまちだが、「使ったり使わなかったりして尿酸値を上下させるのがよくない。痛風を起こしたことがなく、ただ尿酸値が高めというだけでは勧めないケースも少なくありません」という。