ガンマナイフで生命予後の改善 転移性脳腫瘍の最新治療

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 転移性脳腫瘍は、がん患者の1割に発生するといわれる。最新治療をNTT東日本関東病院ガンマナイフセンター・赤羽敦也センター長に聞いた。

 転移性脳腫瘍は、体のほかの部位にできたがん(原発がん)が脳内に遠隔転移したもの。原発がんでトップを占めるのが肺がんだ。

 肺がんは2016年の男性の死亡数第1位。遠隔転移のため、がんのレベルはステージ4で、2006~08年に診断を受けた肺がん患者のステージ4における5年相対生存率は4.8%だ。

「しかし近年、分子標的薬(特異的に発現する分子を狙い撃ちにする抗がん剤)の登場で肺がんの治療成績は飛躍的に向上。ステージ4でも年単位の延命が期待できる場合がある。5年、10年先も見越した、より安全・確実な転移性脳腫瘍の治療が求められています」

 転移性脳腫瘍の治療は「手術」と「放射線」がある。

 どちらにも一長一短があり、「○○の方がいい」とは言えない。患者の状態に応じて選択される。

■麻痺が消えQOLが向上

 赤羽センター長は、放射線治療のガンマナイフが専門。

 ガンマナイフは、スウェーデンの脳神経外科医が1968年に開発したもので、開頭せずに治療できる脳内疾患専用の定位放射線治療機器だ。

“定位放射線”は、多方面からがんに集中して放射線を照射することで、正常な組織へのダメージを極力抑えられる。

「転移性脳腫瘍に対するガンマナイフの目的は2つあり、生命予後と機能予後の改善です」

 一般的に、がんは大きいほど悪性度が高くなるが、脳腫瘍はそうとは限らない。

「できた場所によっては、1センチの小さな脳腫瘍でも神経症状や麻痺につながることがあります」

 転移性脳腫瘍が大きかったり、数が多すぎたりして、「ガンマナイフでは転移性脳腫瘍を全て取りきれない」といったケースの場合でも、悪影響を及ぼす場所の脳腫瘍を取り除くことで、生命予後と機能予後、あるいはどちらか一方が改善されることがある。

「58歳で文筆業の女性は肺がんから転移して脳の右側に転移性脳腫瘍が。体の片側に麻痺が出て文字を書けない。ガンマナイフを行ったところ、2カ月後には麻痺が消え文筆活動を再開。QOL(生活の質)が上がったと喜んでおられました」

 転移性脳腫瘍への放射線治療は定位放射線(ガンマナイフ)のほか、脳全体に放射線を照射する「全脳照射」もある。

「脳腫瘍が4個以内、3センチ以下が定位照射、それらを超えたら全脳照射」とされているが、赤羽センター長らは「2~4個の群」と「5~10個の群」で比較試験を行ったところ、どちらも生命予後は同等だった。この結果は、世界5大医学雑誌「ランセット」の姉妹誌「ランセット・オンコロジー」に掲載された。

「全脳照射は治療期間が長く、認知機能の低下など副作用があり、一生に一度しか行えません。全脳照射しか向かない転移性脳腫瘍もあるため慎重な検討が必要ですが、小さめの脳腫瘍で10個以内であれば、ガンマナイフの実施を考えます」

 NTT東日本病院では5月から、日本で数台しか使われていない最新ガンマナイフを導入。通常、治療中に頭部が動かないよう、局所麻酔下で頭蓋骨にピンを刺して固定するが、ピンを使わずマスクで固定。脳腫瘍の大きさによっては数回に分けて照射する方がベターだが、その「分割照射」も容易にできる。

 なお、ガンマナイフは保険適用内。3割負担で20万円ほどで、高額療養費制度も利用できる。

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