山菜採りや潮干狩りの季節ゆえ 春の食中毒はこんなに怖い

食材調理による自然毒に注意
食材調理による自然毒に注意(C)日刊ゲンダイ

 猛威を振るったノロウイルスが下火となり、「これで食中毒の心配は梅雨入りまで大丈夫」とホッとひと息ついている人もいるかもしれない。しかし、油断は禁物だ。春には春特有の食中毒があり、通年性の食中毒も侮れない。これからどんな食中毒に気をつけるべきか? 女子栄養大学の上田成子元教授に聞いた。

 厚労省によると、2016年の食中毒件数は1139件。患者数は2万252人で死者数は14人。そのうち、4月の食中毒事件数は99件で、患者数は2059人、死者数は2人だった。

「これは月別の患者数で4番目、死亡者数で2番目にあたります。食中毒の原因は4つに大別できます。微生物(細菌性、ウイルス性、原虫)、寄生虫、自然毒、化学物質によるものです。このうち4月以降注意したいのが、山菜採りや魚釣りなどで、とってきた食材を食べたことで起きる自然毒によるものです」

 自然毒による食中毒には植物性と動物性がある。植物性ではスイセンやバイケイソウ、トリカブトなどによる食中毒が毎年のように報告されている。

「スイセンの葉をニラと間違えて卵と一緒に調理するなどして病院に運ばれる人がいます。スイセンを食べると30分以内に悪心、冷や汗、頭痛、嘔吐といった食中毒症状が出ます。球根をタマネギと間違えて味噌汁の具に使い、中毒症状に襲われた家族もいます」

 バイケイソウやコバイケイソウは山菜採りで人気のオオバギボウシやギョウジャニンニクと間違えられやすい。

 猛毒のトリカブトも食用のモミジガサなどと間違えて食べてしまい一命を落とすケースも報告されている。

「素人が食べられるものとそうでないものを区別するのは難しい。山菜は自分で採ったり露店で買うのではなく、確かなお店で買いましょう」  家庭菜園をしている人はジャガイモによる食中毒にも注意した方がいい。

「ジャガイモの芽や皮には天然毒素であるソラニンやチャコニンが含まれています。とくに学校や家庭菜園などで育てた小さく未熟なジャガイモには多く含まれています」

 フグによる食中毒の7割以上は家庭内で起きている。魚を釣ったからといって知らない魚は食べないこと。実際、フグ以外にも有毒魚はたくさんあってアオブダイはそのひとつ。西日本で釣れる魚で、環境により毒性化することが知られている。6年前には長崎県内で釣ったアオブダイを自宅で調理した70代の男性が死亡、一緒に食べた妻や息子が腰痛などの体調不良を訴える事件が起きた。

「巻き貝以外にアサリやハマグリなどの二枚貝による食中毒も報告されています。昨年4月には愛知県で採れたアサリから基準を上回る貝性毒が検出されたため、愛知県内の一部で潮干狩りが中止になりました」

 貝による食中毒は、有毒プランクトンによって毒性を持っていない貝が毒化することでも起きる。日本では定期的に有毒プランクトンの検査を行い、基準を超える毒性のある貝の出荷を止めている。そのため、貝毒による食中毒の報告は少ないが、公認の潮干狩り場以外で貝を採るのは法律面だけでなく、健康面からも避けた方が無難だ。

■水筒が原因になることも

 これからは微生物によるお弁当の食中毒にも注意したい。

「食中毒の原因となる代表的な微生物はサルモネラ菌・カンピロバクター菌・ノロウイルスですが、とくにノロウイルスは警戒すべきです。かつては生ガキからの感染がほとんどでしたが、いまは複合調理食品が増えて、それを扱う人の手などから感染する機会が増したからです」

 ノロウイルスは乾燥状態でも2週間以上生存し、10度以下の低温に保存された食品の中でも約1週間生存する。

「水(4度)の中では1カ月以上生存するともいわれており、夏場でもノロウイルスによる食中毒は報告されています。二枚貝に多く潜伏しているので貝を生で食べるのはやめ、食品を触る前には徹底して手洗いをすることです」

 黄色ブドウ球菌やウェルシュ菌による食中毒にも気をつけたい。

「黄色ブドウ球菌は人や動物の体表面に分布していて、それが原因の食中毒は6割以上お弁当やおにぎりで起きています。35~40度が至適発育温度ですから、温かくなるにつれ増えてきます。ウェルシュ菌は幅広い食品に含まれて熱にも強い。他の嫌気性菌と違って多少の空気があっても生きられるしぶとさがあります。お弁当は手や包丁などをしっかり洗ってから作り、できたものは冷蔵庫で冷やす。水分を切った上で、2次汚染しないように間仕切りのある弁当箱に詰めましょう」

 ちなみに、水筒の内側が壊れて内部で使われていた銅が露出。飲料に混ざって銅による食中毒を起こした例もある。

 春は行楽時の食中毒に十分な注意が必要だ。

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