がんや心臓病より怖い

孤独<7>血液検査でうつ病を診断しようという試みが各国で

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 孤独と関係が深いうつ病。従来は質問シートや面談をもとに、精神科医が知識と経験に照らし合わせて診断を行っていました。しかし最近、血液検査でうつ病を診断しようという試みが各国で始まっています。

 血液検査といえば、健診などの採血が思い浮かびます。血糖値やHbA1cが高ければ糖尿病、γ―GTPが高ければ肝機能に問題あり。だいたい1項目か2項目で、異常や病気を発見しようというのが、従来の血液検査です。

 一方、うつ病などの診断に使おうとしているのは、「メタボローム解析」と呼ばれるまったく新しい方法です。体の中ではさまざまな化学反応が行われており、生成される物質(代謝物)が血液中に溶け出してきます。その数は数千種類といわれており、それらすべてをまとめて「メタボローム」と呼んでいます。

 メタボロームは体の状態を反映していると考えられます。とくに病気がある人は健康人と比べて代謝物の種類と量が大きく変わってくることがあります。すべての代謝物の種類と量を測定し、統計処理で特徴的なパターンを抽出することで、体に潜む病気を推定しようというのがメタボローム解析です。

 この解析では、質量分析装置と呼ばれる最新機器などを使って、できるだけ多くの代謝物の濃度を測定します。いまのところ100ないし200種類の代謝物の測定が可能になってきています。

 2016年に日本の研究チームが発表した論文(PLOS ONE、2016年)によれば、5種類の成分(3―ヒドロキシ酪酸、トリメチルグリシン、クエン酸、クレアチニン、γ―アミノ酪酸)の変動が、うつ病と強く相関していることが示されました。もちろん「この成分が上がったから(下がったから)」というような単純な話ではありません。複雑な統計処理を行った結果、これらの成分の変動パターンとうつ病の強さが相関していた、ということです。因果関係まではまだ分かっていません。

 ちなみに3―ヒドロキシ酪酸(3HB)は「ケトン体」と呼ばれる物質の代表格。低炭水化物ダイエットに詳しい人ならご存じのはずです。体内の脂質代謝によって作られ、とくに血糖値が下がってくると、ブドウ糖の代わりにエネルギー源として燃やされます。ところが最近、3HBが抗うつ作用を持つことが明らかになり、にわかに脚光を浴びているのです。医学の世界では、うつ病は脳の炎症の一種と考えられています。そして3HBには、その炎症を抑える作用があるらしいのです。うつ病の治療法として糖質制限を勧める医師が増えているのもうなずけます。

 メタボローム解析でうつ病の診断ができるようになれば、もう一歩進めて、孤独感やその強さの客観的な診断も可能になるかもしれません。そうなれば、孤独を医学的に治療する道も開けてくるはずです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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