年をとったら「太る」を目指す

経口摂取が困難な場合「人工栄養」はやるべきか

低栄養が続けば治療断念も…
低栄養が続けば治療断念も…(C)日刊ゲンダイ

 がんになると、健康な時のようには食事をできなくなることが多く、低栄養になりがちです。

 抗がん剤や放射線などの治療を組み合わせてがんを治療して、寿命を延ばせられる可能性がある時に、経口摂取が困難な場合、口以外から水分と栄養を補給する「人工栄養法」を検討します。腹部に開けた穴から管を入れ、胃に栄養を送る「胃ろう」や、鼻からの「経鼻経管栄養法」があります。

 無理に栄養を入れている、というイメージがあるからでしょうか。胃ろう造設に対して否定的な考えを持っている患者さんやご家族もいるかもしれません。しかし、低栄養が続けば、身体状態は悪化していき、受けられるはずだった治療も断念せざるを得なくなります。つまり、寿命も短くなる可能性が高いのです。

 胃ろうで十分な栄養を摂取し、リハビリを行って体力をつければ、新たな治療を受けられるケースもあります。胃ろうは必要なくなれば、穴を閉じて口からの食事のみに切り替えられます。

 頭頚部がんや食道がんの方は、手術後、嚥下(えんげ)障害などによって、経口摂取の量が不十分になりがちです。この場合、一時的に胃ろうや腸ろうを作り、経口摂取と人工栄養を併用します。がん患者におけるリハ栄養は、注目が集まっている分野です。

 一方、余命が1カ月以内と予測されるがんの終末期になると、話は別です。この段階では、栄養摂取目的の胃ろうや経鼻経管栄養法は取り入れなくていいと考えています。がんに限らず、脳卒中後遺症や認知症、老衰などで人生の最期が近づいていると予想できるケースでは、やはり人工栄養は選択しません。患者さんの苦しみを少なくする処置が主に求められると考えています。

若林秀隆

若林秀隆

リハ栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害を特に専門とする。日本リハビリテーション医学会指導医・専門医。

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