前立腺がん早期治療 トモセラピーのメリットとデメリット

唐澤部長とトモセラピー
唐澤部長とトモセラピー(C)日刊ゲンダイ

 全てのがんの中で特に増加率が高いのが前立腺がんだ。早期であればさまざまな治療法がある。そのひとつ「トモセラピー」による治療について都立駒込病院放射線診療科治療部・唐澤克之部長に聞いた。

 トモセラピーは米国で開発されたCT搭載の強度変調放射線治療機器。がんの形に合わせて線量強度を変えて照射する方法で、正常組織へのダメージを最小限にできる。

 日本では2008年に前立腺がんなど3疾患が、10年に限局した固形がんの全てが保険適用になった。最も多く使われているのは前立腺がんだ。

 駒込病院では12年から導入。前立腺がんは生検組織のがんの悪性度やがんのステージによって低・中・高リスクの3段階に分けられるが、「低リスクでは治癒率はほぼ100%。中リスクでも前立腺がんの再発による死亡例はなく、高リスクでも5年で90%以上の治癒率」だという。ただし、実施年数はまだ6年ほど。世界的に見ても、登場したのが02年なので、20年足らずだ。

「長期成績が出ていないのでトモセラピーによる治療が本当にいいかどうかは明言できません。少なくとも10年間の経過観察は必要。しかし経験から、非常に優れた治療法だと考えています」

 なぜなら副作用が少ないからだ。全身転移のない前立腺がんの治療は「全摘手術」「放射線治療」「ホルモン療法」「経過観察」などがあるが、手術では尿失禁、勃起不全という副作用がある。手術支援ロボット、ダビンチの登場で率は減っているもののゼロではない。

■尿失禁もほとんど起こらない

「放射線治療のひとつであるトモセラピーはホルモン療法と併用して行いますが、低リスクの前立腺がんでは手術と治療成績が同等。中・高リスクでも同等の成績が期待できます。一方、トモセラピーでは尿失禁、勃起不全が起こりにくい」

 勃起機能を術前と同様に保てる点に着目してトモセラピーを選ぶ患者も少なくない。ただし、前立腺の中を尿道が通っているため、頻尿になるリスクがある。

「1日の排尿回数が平均10~十数回に増えます。治療を終えれば、徐々に元通りになっていきます」

 もうひとつデメリットとして挙げるなら、「手術であれば、再発時に放射線治療という選択肢がある。放射線治療の場合、再発時に手術は困難。一般的にホルモン療法を行うことになる」という点。これに関し、唐澤部長は「再発させないようにトモセラピーを行う、と述べるしかない。実際、再発例は現段階でほとんどありません」。

 トモセラピーはCT画像撮影によって前立腺と、近くの直腸、膀胱の位置を確認しながら、前立腺がんにだけ大量に放射線を当てられる。これまでの放射線治療になかった「360度らせん状照射」が可能で、線量の集中性が際立っている。

「前立腺は排尿、排便、おなら、わずかな体位の変化などで位置がズレます。ミリ単位のズレでも治療成績は落ち、周囲の重要臓器へダメージを与える。トモセラピーは一体化されたCTで位置を調整しながら照射できるため、より高い精度が保証され、それによって良好な治療成績、安全性を保てるのです」

 一般的に、治療は外来で2グレイ(放射線量)×週5日、合計38回、総線量76グレイを行う。仕事と両立できる。

「米国では86グレイなど高い放射線量で行うところもありますが、治療後5年以降、尿道障害が多発するとの報告があります。日本では75~80グレイで治療を行うようになっています」

 放射線治療としては、陽子線や重粒子線といった粒子線療法も4月から保険適用になる。新たな選択肢が加わる。

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