大手製薬会社が新薬の開発をがん治療薬にシフトしている。医薬品専門誌の編集長が言う。
「これまでは高血圧、糖尿病など生活習慣病薬の開発がメインでしたが、すでにジェネリックで十分対応でき、今後の新薬の期待は薄い。いま各社が狙うのは免疫チェックポイント阻害薬など、がん免疫治療薬の開発です」
その象徴が小野薬品工業が2014年に発売した免疫チェックポイント阻害薬・オプジーボ。がん細胞が破壊する免疫への攻撃を抑制し免疫力を復活させて、がん細胞を攻撃する治療薬だ。
オプジーボは当初の悪性黒色腫の治療承認から、腎細胞がんなどに承認が拡大され画期的な治療効果を上げている。
現在認可されている免疫チェックポイント阻害薬はオプジーボ、ヤーボイ(小野薬品工業)、キイトルーダ(MSD)など5種類。医療コンサルタントの吉川佳秀氏が説明する。
「従前の5薬は悪性黒色腫、一部肺がん、腎臓がんの3種類のがんへの適用ですが、4月から適用が拡大されてくる。また、現在10種類の免疫チェックポイント阻害薬が開発中で、今年度中には発売が予定されています」
国内大手製薬会社は、がん治療薬の開発で海外メーカーに比べて後れを取ってきた。
しかし、ここにきて大手各メーカーは、がん治療薬を重点に開発資金をシフトしてきた。
第一三共は中山譲治会長兼CEOが「あらゆる資源をがんに傾斜配分する」と明言。20年までに総額9000億円の研究開発費をがん治療薬の開発に投入することを発表した。
武田薬品工業は現在、4兆円規模でアイルランドの大手製薬会社シャイアーの買収を検討中だ。武田はすでに昨年2月、がん治療薬に強い米国の製薬会社アリアド・ファーマシューティカルズを約6200億円で買収。さらに昨年末には東京本社ビルの建物と土地を約495億円で高島屋に売却したほか、品川区の賃貸用オフィスビルを約320億円で売却している。いずれもがん治療薬開発の遅れを取り戻すためのシフトだ。
「これまで治せないといわれたがんも、遺伝子を見つけることで治る。免疫治療薬の開発で5年後にはがん患者は死ななくなる。その一歩手前まで来ているといえます」(前出の吉川氏)