子供好みの食事が続くと…すい臓がんリスクを医師が解説

毎日のように揚げ物を食べるのは…
毎日のように揚げ物を食べるのは…(C)日刊ゲンダイ

 年配のパパ、ママや老親と3世代同居する家庭が増えているが、育ち盛りの子供がいる場合は食事に気をつけた方がいい。子供の好みに合わせて揚げ物やハンバーグ、焼き肉など脂っこい食事になりがちで、祖父母はもちろん、パパ、ママもすい臓にダメージを受ける恐れがある。「日本人の遺伝子」(角川新書)の著者で国際医療福祉大学病院内科の一石英一郎教授(消化器内科)に聞いた。

 吉田恵子さん(仮名=78歳)は半年ほど前に腹部に強い痛みを感じた。「胃の病気」を疑い大学病院で胃カメラを撮ってもらったが異常なし。胃はまったくきれいな状態だった。

 念のためMRI(磁気共鳴画像装置)を撮ったところ、胃の裏側にあるすい臓がボロボロになっていた。

「吉田さんは、すい嚢胞ができており、すいがん寸前の慢性すい炎でした。共稼ぎの娘夫婦と小学生、中学生の孫と同居していた吉田さんは料理を担当。“孫の喜ぶ顔が見たい”と、毎日のように孫の好物の揚げ物を作っていました。わざわざ自分や娘夫婦用の食事を作るのも面倒なので、孫と同じものを食べていたようです。結果、すい臓に負担がかかったのです」

 慢性すい炎になると「腹部の痛み」「倦怠感」「背中の凝り」「体重低下」「水面に広がる脂便」などの症状が出る。吉田さんも思い当たることがあったと言う。

 すい臓は胃の裏側にある長さ15センチほどの臓器で、すい液を作り、十二指腸に送る。具体的には、糖質を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼといった消化・分解酵素や糖の代謝に必要なインスリン、グルカゴンなどのホルモンを分泌する。

「これがうまく働かないと、細胞に栄養が供給されず、エネルギーが作れなくなります。すい臓が悪いと疲れやすいのはこのためです。50年ほど前まで日常的に脂っぽい食事をする習慣がなかった日本人はすい臓の機能が弱い。晩婚化で女性の第1子出産の平均年齢は31歳となったのに、すい臓が縮小しその機能低下が目立ち始める40代以降も子供と同じ脂肪たっぷりの食事を取り続ければ、すい臓に問題が起きるのは当然です」

 すい臓の病気は短命につながる。日本の慢性すい炎の平均死亡年齢は男性が67.2歳、女性は68.7歳と平均寿命より10歳以上短い。死因の44%はがんである。

 ところが現在の人間ドックや健診はすい臓の異変を見逃しがちで、重度のすい炎やすい臓がんになって初めて気づく場合が多い。国立がん研究センターによると、すい臓がんが発見された時点で他の臓器に転移して手術ができない4期のケースが40%以上で、転移のない0期と1期での発見はたった12%。すべてのがんの5年生存率が62.1%に対してすい臓がんのそれは7.7%だった。

■女性の罹患率が急上昇

 とくに女性は注意が必要だ。

 すい臓がんのリスクファクターは「年齢」「喫煙」「肥満」「運動不足」「脂肪過剰な食事」「飲酒」「糖尿病」などで、高齢な男性が多かった。近年は女性の罹患率が急上昇している。

「気になるのは飲酒や喫煙の経験がない女性患者が増えていることです。男性と違い外食の回数が少なく、子供と同じ食事になりやすい。気付かずに脂肪過剰の食事を取っている可能性があり、そのことがすい臓に関わる遺伝子に影響を与えているのかもしれません」

 例えばすい臓をつかさどる遺伝子に「トリプシン・インヒビター1」がある。消化酵素トリプシンを制限する働きがあり、これが弱いとトリプシンが暴走して自分の体内のタンパク質を分解してしまう。フランスの研究ではすい臓の弱い家系はこの遺伝子が欠損するか、弱っていたと報告されている。

“食事くらいで遺伝子の病気であるがんになるはずがない”と思う人もいるかもしれない。しかし、遺伝情報が書かれたDNAの変化を伴わずに、食事や運動習慣などの外部刺激で遺伝子を載せた染色体が変化。がん遺伝子やがん抑制遺伝子などをオン、オフすることがある。これをエピジェネティクスという。

「ハワイの日系移民や沖縄県民が食事の西洋化で短命になったのもその影響かもしれません。血液検査でトリプシンやアミラーゼが高かったら、医師と相談してMRIや超音波内視鏡検査を受けた方がいいかもしれません。前がん病変であるすい嚢胞やすい管拡張が見つかることがあります」

 2親等以内にがんを患った人がいれば、すい臓がんのリスクは1・85倍、乳がんの人がいれば3倍に跳ね上がる。

「糖尿病にも注意が必要です。米国ではすいがんの患者の60~81%は糖尿病で、病歴10年以上の人は健康な人に比べて50%も発症リスクが上昇します。こういう人もすい臓の定期的検査が必要です」

 まずは子供と大人の食事は分けることだ。

関連記事