末期がんからの生還者たち

大腸がん<1>「検査室の異様なやりとりでがんを予感した」

岩井ますみさん
岩井ますみさん(提供写真)

「働く女性のためのがん入院・治療生活便利帳」(講談社)や「アロマテラピー事典」など、10冊を超える著書を持つ岩井ますみさん(54歳、千葉県市川市在住)は、幅広いビジネスを手掛けている。

 カラーコーディネーター、アロマテラピーインストラクター、さらに自宅近くに、色を中心にしたおしゃれや配色などを教える「大人のおしゃれレッスン」教室を開き、認知症予防専門士としても活動している。

 高校時代は水泳、バドミントン、大学ではスキー、テニスで青春を満喫し、人並み以上の健全な体力に恵まれていた。むろん、普段から健康には十分に気をつけてきた。

 毎年1回の健康診断も欠かすことがなかったが、2007年12月、43歳のときに自宅近くのクリニックで受けた健康診断の結果に、初めて黄信号がともる。

 それまでの10年間「健康状態は正常、問題なしのA判定」が続いていたが、「便潜血に陽性が出ています。ほかに貧血があります」という結果だった。岩井さんはこのとき医師から、「貧血の方は食事に気をつけ、少し様子を見ましょう」と言われたという。

■「次回に来るまでに病院を決めておいて」

 この時期、カルチャースクールの講師、執筆、講演など、仕事も多忙で、また同居している病弱な父親の世話なども加わり、つい便潜血陽性が記憶から薄れていた。

 翌08年11月に定例の「健康診断」を受けたとき、再び「便潜血・陽性」の結果が出た。

 これといった自覚症状はなかったが、担当医のアドバイスを受けて、地元の総合病院「大野中央病院・外科」で精密検査を受診することにした。

 約2時間かけて下剤を飲み干し、大腸内視鏡検査を受けていたとき、モニター画面を見ていた医師が、「アッ」と驚いた声を上げた。

 直後から検査室が慌ただしくなる。医師と看護師の矢継ぎ早の会話が続いた。

「検査室の異様な事態を耳で聞きながら、私は『がんなのか』と怖さを感じる一方で、どこか冷静な自分がいました」

 急きょ、大腸組織の生検を行い、やがて車椅子に乗せられてレントゲン室に移動した。腹部の撮影が終了して、1時間ほどベッドに横たわり、再び診察室に呼ばれる。担当医からこう説明された。

「たぶんお分かりだと思いますが、良い状態ではありません。手術を受ける必要があるかと思いますが、次回、来るときまでに病院を決めておいてください」

 岩井さんが会計を済ませて病院を出ると、外はもう真っ暗。広い駐車場に、岩井さんの車だけが1台ポツンと残されていた。

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