張り切りすぎで命を縮める 「春の運動」で注意すべきこと

息切れするような強い運動はNG
息切れするような強い運動はNG(C)日刊ゲンダイ

 新年度を迎え、健康のために何か運動を始めようと張り切っている人は多いに違いない。運動が健康に良いことは間違いない。しかし、やり過ぎは逆効果になりかねない。

 運動の健康効果は大きく2つある。まずは「ダイエット効果」で、摂取したエネルギーを運動で消費することによって肥満を防ぐ。肥満は糖尿病や高血圧といった生活習慣病の大きなリスク因子で、がんや心血管疾患などの命に関わる病気につながる。

 2つ目は「筋力の維持」だ。筋肉は使わない状態が長く続くと廃用性萎縮が起こってどんどん筋力が落ちていく。それが進むと「歩けない」「起き上がれない」といった状態になり、最悪の場合は寝たきりになってしまうケースもある。

 やはり、健康のために運動は重要だ。しかし、だからといって過剰に体を動かすと、逆に命を縮めることになる。「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身氏(大阪市立大学大学院医学講座特任教授)は言う。

「適度な運動には健康効果がありますが、過剰な運動は自律神経に負担をかけます。自律神経は、脈拍、呼吸、血圧、体温、睡眠などわれわれのあらゆる身体活動をコントロールしています。激しい運動をすると、心拍数、呼吸、体温が上昇しますが、そうなるとそれらをコントロールするために自律神経が活発に働きます。そんな自律神経に負担がかかる状態が長く続くと、脳の細胞で活性酸素が発生し、酸化ストレスの影響で自律神経がさびついてしまう。自律神経が本来の機能を果たせなくなってしまうのです」

■息切れするような強い運動はNG

 さらに、過剰な運動で自律神経のフル回転状態が続くと自律神経失調症の状態になる。自律神経だけでは身体活動を維持するための処理ができなくなるので、それを補うために内分泌免疫系を稼働させる。そうなると、ステロイドホルモンの分泌が促進され、インスリン抵抗性が表れてインスリンの作用が発揮できない状態になったり、血圧が高くなる。その結果、糖尿病、がん、心血管疾患といった命に関わる疾患の発症リスクがアップしてしまう。

 デンマークで実施された「コペンハーゲン・ハート・スタディー」という長期健康調査がある。ジョギングを行っている健常者1098人と、ジョギングを行っていない健常者3950人を12年間にわたって追跡したところ、最も死亡率が低かったのは週3回以下で週2.5時間未満という「軽いジョギング」をしているグループだった。週4回以上で週2.5時間以上、または週3回以下で週4時間以上の「激しいジョギング」をしているグループは、軽いジョギングと比較すると死亡率が9倍も高く、ジョギングをしていないグループと比べても死亡率が高かった。

「つまり、健康のためにジョギングをするなら、毎日きっちりルーティン化するのは逆効果で、週に2~3回程度のゆるいペースの軽いジョギングで十分なのです。毎日ジョギングをしている人は、疲れているときも頑張って走っているということです。これは自律神経に大きな負担をかけることになるのです」

 激しい運動は体にとってマイナスになる。とはいえ、まったく体を動かさないと全身の血流が悪くなり、これも自律神経に負担がかかってしまう。では、これまで運動習慣がほとんどなかった人にとって「適度な運動」とはどの程度のものなのか。

「息切れするような強い運動はNGです。1キロ以内の距離を、汗をかかない程度のスピードで散歩するだけで効果があります。足の筋肉を交互に動かすだけでも、ふくらはぎのポンプ機能が働いて心臓の負担を減らすことができるのです。また、朝の運動は特に注意が必要です。起床した直後は自律神経のコントロール機能がまだ十分に働いていない状態です。そのタイミングで激しい運動をすると、心筋梗塞や脳卒中を招きやすくなります。まずは朝食を食べたり、朝日を浴びて光を目に入れるなどして、自律神経をしっかり起こしてから体を動かすようにしましょう」

 張り切りすぎは禁物だ。

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