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【双子研究】一卵性双生児でも環境で20%の個人差が出る

ザ・たっちを分析したらどうなるか…(左は安藤寿康教授)
ザ・たっちを分析したらどうなるか…(左は安藤寿康教授)/(提供写真)
安藤寿康教授 慶應義塾大学・文学部(東京・三田)

 人に「遺伝」と「環境」が、どう影響しているかみることができる「行動遺伝学」。

 主要な調べ方として古くから用いられるのが「双生児法」だ。同じ家庭環境で育った一卵性双生児(遺伝的類似性100%)と二卵性双生児(同50%)を比較することで遺伝の影響を調べることができる。

 双子研究を始めて約20年、これまで1万組(2万人)の双子を調査してきた安藤寿康教授(顔写真)は、双生児法の特徴をこう言う。

「双子のデータさえあれば、どんなことでも類似性を比較することで遺伝の影響があるか、ないか、あったとしたらどれくらい強いか、年齢によってどう違ってくるか、また、例えば、ある病気と別の病気の2つの形質の間に共通の遺伝要因があるか、それとも共通の環境からきているのか、ということも統計的に分析することができます」

 人はすべてのことにおいて「遺伝」と「環境」の両方の影響を受けている。病気の発症も同じだ。

 例えば、糖尿病の家族歴がある場合、一般的に次のような確率で糖尿病を発症するといわれる。

「両親ともに糖尿病では約50%」「片親が糖尿病では約30%」「きょうだいの1人が糖尿病では約15%」「一卵性双生児の片方が糖尿病では約80%」「二卵性双生児の片方が糖尿病では約20%」

■田舎より都会の方が遺伝の影響が出やすい

 このように、遺伝子的には同じはずの一卵性双生児であっても100%にならず、約20%に個人差がある。これがまさに環境の影響だ。

「女性がどれだけお酒を飲むかという米国の有名な研究があります。統計的に、女性が独身のときの飲酒の遺伝率は60%くらい。それが結婚すると30%くらいに減ります。同様に喫煙や不倫などの遺伝率も環境の自由度によって変化します。これは都会と地方を比較した研究でも同じで、自由度の高い都会の方が遺伝が強く出ることが分かっています」

 ひと言で「環境」といっても、それが家庭の中にあるのか、家庭の外にあるのか、あるいは家庭の中にあったとしても全員が同じようにさらされているのではなく、一人一人が違うのかという点で区別する必要がある。

 行動遺伝学では、家族のメンバーを類似させるような環境を「共有環境」、家族一人一人を異ならせる環境を「非共有環境」と呼んでいる。そして、病気の発症を含め、人は共有環境の影響はほとんどなく、個人差の多くは非共有環境から成り立っているという。

「例外的に共有環境の影響があるのは『知能』や『学力』。病気であれば原因となる物質が家庭に置いてあるアルコールやニコチンなどの『依存症』です。インフルエンザや水虫などの感染症も家族からうつることもありますが、しかし、そのようなことは行動遺伝学全体からみたら例外なのです」

 他人と環境条件が同じでも、ウイルスに感染しにくいかどうかにも遺伝の影響がある。糖尿病になりやすい食事内容を好むのも、環境ではなく遺伝の影響という。

 遺伝子の一つ一つを調べる分子遺伝学と、双子研究による行動遺伝学のビッグデータが集積されれば、将来、AIの活用でかなりの病気が予防できるかもしれない。

▽東京都出身。1981年慶応義塾大学文学部卒後、同大大学院社会学研究科博士課程修了。同大文学部講師、准教授を経て2001年から現職。専門は行動遺伝学、教育心理学。〈所属学会〉日本双生児研究学会、日本教育心理学会、日本発達心理学会など。

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