始まりは5年前。父72歳の時である。
父からのメールが変化した。漢字変換をできずひらがなだけになり、そのうち日本語変換ができなくなって文面がローマ字だけになった。しかも打ち間違いが多い。解読不能。最初は暗号か何かの呪いかと思った。
以前は写真もやたらと送ってきた。その写真も次第にピントがボケていき、添付もできなくなったようだ。父が奮発して購入したニコンのデジタルカメラも、気が付けばホコリだらけ。60万円が無駄になった。
実は私の父は新聞記者だった。自分で現像して紙焼きにするほど写真が好きだったし、原稿もワープロで書いていたはずなのに。ここまで衰えるものかと愕然とした。少し悲しかった。
親からの意味不明なメールが増えたら、老化が本格的に始まったと思っていい。私の父は坂を転がり落ちるように、日常的な作業ができなくなっていった。
実録 父親がボケた