実録 父親がボケた

<1>始まりは5年前…メールの文面がひらがなだけになり

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 始まりは5年前。父72歳の時である。

 父からのメールが変化した。漢字変換をできずひらがなだけになり、そのうち日本語変換ができなくなって文面がローマ字だけになった。しかも打ち間違いが多い。解読不能。最初は暗号か何かの呪いかと思った。

 以前は写真もやたらと送ってきた。その写真も次第にピントがボケていき、添付もできなくなったようだ。父が奮発して購入したニコンのデジタルカメラも、気が付けばホコリだらけ。60万円が無駄になった。

 実は私の父は新聞記者だった。自分で現像して紙焼きにするほど写真が好きだったし、原稿もワープロで書いていたはずなのに。ここまで衰えるものかと愕然とした。少し悲しかった。

 親からの意味不明なメールが増えたら、老化が本格的に始まったと思っていい。私の父は坂を転がり落ちるように、日常的な作業ができなくなっていった。

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吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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