新たな問題が続出 うつ病の薬はどうすればやめられるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 精神疾患において、日本は「多剤併用」が著しいといわれる。多剤併用とは、多種類の薬が処方されていること。「はるの・こころみクリニック」(東京・阿佐谷)院長で、杏林大学名誉教授の田島治医師に聞いた。

「多剤併用は日本だけではありません。世界的に見られる傾向です」

 田島院長は長年、杏林大学でうつ病など精神疾患の薬物療法について研究。抗うつ薬の副作用研究の権威だ。

 その田島院長が近年感じているのは、「うつ病が治らない病気になっている」ということだ。

「一般的に、うつ病を発症しても2年以内で回復し、症状が長引くのは1~2割です。ところが、真面目にきちんと薬を飲んでも、回復しない人が増えています」

 日本のうつ病患者は1984年で約10万人だったが、2014年には112万人。その中には、ストレス、性格、発達などが関係する「非典型的で薬が効きづらいうつ病」が多く含まれる。

 これらのうつ病は、薬とともに心理的アプローチも必要だが、一部の精神科医を除き、医師は「良くならないから」と薬をどんどん出してきた。専門医以外が処方しやすい薬が登場したのも一因だ。

 長年うつ病で療養していると、体力や気力が落ち、精神的に弱くなり、よりうつ病から回復しづらくなる。

「良くならないうつ病について研究しているうちに、最終的には薬をやめられるはずの人も不必要な薬を飲み続けていることが分かってきました。そこで不必要な薬を整理し、最終的には医者や薬と縁を切る『引く治療』を目標に掲げたクリニックを始めたのです」

■医師が“教科書通り”にやっても失敗

 減薬について、教科書的には「25%を超えないで減らす」「1~2週間以上かけて減らす」としているが、田島院長は病状に合わせて、長い時間をかけて減らしていく。10年以上薬を飲んでいる患者も多く、減薬にも年単位の時間がかかる。

「どの薬も離脱症状が出るので、患者さんにはそれを説明します。特に睡眠薬や抗不安薬は減薬が難しい。離脱症状には典型的なものとそうでないものがありますが、典型的な離脱症状だけでも1カ月、1カ月半と続きます」

 あまりに離脱症状がひどければ、いったん薬の量を戻すこともある。最後の1錠をやめるのに1年以上かかった、というケースは少なくない。

 田島院長が問題視しているのは、減薬の失敗だ。多剤併用の一方で、今は“減薬ブーム”。薬は「出す」より「引く」方がはるかに難しく、その経験値が圧倒的に不足している医師が大半だ。自己判断で勝手に薬をやめてしまう患者もいる。

「減薬のタイミングを間違えている、あるいはスピードが速すぎると、離脱後症候群と呼ばれる状態となる。減薬の失敗で寝たきりや自殺未遂に至る患者さんも珍しくありません」

 減薬の失敗による不調が薬をやめて何年経っても消えないこともある。

「薬は必要な時には飲まなくてはならない。しかし、やめられる」と田島院長。もし減薬を考えるなら、その方法に長けた精神科医を受診すべきだ。

■ベンゾジアゼピン系

 離脱症状がひどく、減薬が難しい薬としてベンゾジアゼピン系が挙げられる。日本は海外に比べて処方が多いとの指摘もあるが、「抗不安薬は規制の厳しい欧米でも実際は多く、長期使用も多い。減薬が難しいのはベンゾジアゼピン系に限ったことではありませんが、特に難しい」(田島院長)。

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