しかし、後にその患者さんがたまたま訪れた医療機関で再手術を勧められたと連絡が来ました。おそらく、なんでもいいからとにかく手術をして実績にしようという方針の施設だったようで、再手術と現状維持とのリスク判断に不信感を持ったということでした。
その患者さんは私を信頼してくれていただけでなく、周囲には「自分の体の中には、あの先生に置き忘れられた針があるんだ」と、むしろ自慢していると笑って話してくれました。その頃、私の名前が心臓手術の名医として取り上げられるようになっていたこともあって、「この針が私と先生をつないでいる」というお気持ちがあったといいます。懐かしい出来事です。
最近は、手術器具にもGPSが搭載されたタイプが登場しています。技術の進歩が「置き忘れ」のミスを完全に防ぐ日も遠くないかもしれません。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」