がんの治療は、手術と放射線、抗がん剤が3本柱です。薬剤の進歩には目を見張るものがありますが、固形がんの場合、根治を期待できるのは現状、手術と放射線。抗がん剤では、根治できません。
歌手の大橋純子さん(67)は、早期の食道がんが見つかったと報じられました。治療をどうするか検討したところ、化学放射線治療にすることが決まったようです。
歌手ですから、声帯を守りつつ、最善の策を考えるのが大切。その点、化学放射線療法は、メスを入れることなく治療ができて、治療成績は手術と同等。賢明な判断でしょう。
声帯に関係するがんというと、喉頭がんがあります。4年前、落語家の林家木久扇さん(80)が声が出なくなり、「仕事はどうなるのか」と不安にさいなまれたのが、この喉頭がん。ステージ2だったそうですが、笑点でおなじみの“黄色い着物の人”は放射線治療で高座に復帰。今も元気にお茶の間を笑わせています。
■治療後は胃カメラでフォロー
食道と声帯は、近いところにあり、食道にがんができると、声帯を一緒に切除することが少なくありません。
「一番大事にしてきた声を捨て、生きる道を選びました」
音楽プロデューサーのつんく♂さん(49)が、母校近畿大の入学式で衝撃の告白をしたのは3年前でした。放射線のひとつ、陽子線治療はうまくいったものの、再発が明らかに。一度、放射線を照射したところに、もう一度照射することはできません。当時、6歳と3歳の子供がいて、子供たちのために手術に踏み切ったといわれています。その状況を考えると、手術は当然でしょう。
しかし、大橋さんの食道がんは初発で、来年はデビュー45周年のツアーを計画しているといいます。歌手人生の節目の大イベントを控えつつ、治療するなら、切らずに治す治療を選択するのは妥当だと思います。木久扇さんと同じ考え方です。ぜひこの考え方は、皆さんも頭に入れておくといいでしょう。
では、食道がんを化学放射線で治療した人が、再発したらどうすればいいか。食道がんは再発しやすいことが分かっていますが、この場合も、声帯を温存することが可能です。
化学放射線治療後は、内視鏡検査などで経過をチェックすることで、再発病変も早期発見できます。そうすれば、内視鏡で切除したり、レーザーを使用する光線力学療法で治療したりできるのです。どちらも声帯にダメージを与えることはありません。
食道がんになりやすいのは60代から。晩年にコミュニケーションに欠かせない声を失うのは、歌手でなくてもつらいものです。決して手術だけがベストではありません。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁