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【高齢者てんかん】発作撮影と脳波測定で治療方針を細かく

久保田有一センター長
久保田有一センター長(提供写真)
TMGあさか医療センター/脳神経外科てんかんセンター(埼玉県朝霞市) 久保田有一センター長

 突然、発作を起こす「てんかん」は大脳の慢性疾患。一般的に「子供のときに発症する病気」「ケイレンなどの激しい発作を起こす」というイメージが強い。しかし、主に65歳以降に初めて発症する「高齢者てんかん」は従来のてんかんと症状が異なるため、見逃されているケースが多い。昨年出版された「『高齢者てんかん』のすべて」(アーク出版)の著者、久保田有一センター長(顔写真)は症状の特徴をこう言う。

「高齢者てんかんでは、ケイレンを起こしたり、泡を吹いて倒れたりするようなことはありません。突然、意識が途切れ、動作が止まる。同時に多くの場合、無自覚に口をモグモグさせたり、体を揺すったりする『自動症』が見られます。この発作は1~2分で終わりますが、本人は何も覚えていない。発作後はボーッとした『もうろう状態』が続き、数時間かけて回復していきます」

 高齢者てんかんは、1990年代後半から米国を中心に注目されはじめたが、日本では、まだあまり知られていない。これまで医学部の講義にはなかったが、今年の3月に発行された「てんかん診療ガイドライン 2018年版」には記載された。

■「まだらボケ」と似ている

 一般のてんかんの有病率(全人口)は「100人に1人」とされるが、高齢者てんかんの65歳以上の有病率は「100人に1・5~10人」(米国データ)という。症状が認知症初期の「まだらボケ」に似ているため、認知症と診断されてしまうことが多いのだ。

「怖いのは自動車などの運転中の発作です。高齢者の自動車事故の原因になっているケースがかなりあるとみています。それに調理中に発作が起こればヤケドや火事を引き起こし、入浴中に起これば突然死(溺死)を招きかねません」

 てんかんの原因が脳卒中などの病気で起きていればMRIやCTなどで分かるが、原因不明とされる高齢者てんかんは老化現象の一種なので、画像検査では異常は見つからない。それも見逃されやすい理由のひとつでもある。

 通常、てんかんが疑われた場合は頭に電極をつけて調べる脳波検査が行われる。ただし、異常な脳波が表れるのは発作が起きている間だけなので、外来での脳波検査で異常が検出できる確率は4~5割と低い。

 同センターの場合、1週間の検査入院で調べる「長時間ビデオ脳波モニター検査」のベッドを10床備えているので、高い確率で異常脳波を検出できる全国でも数少ない医療機関のひとつだ。

「入院中、個室で生活してもらい発作時の様子をビデオで撮影しながら同時に脳波を測定します。それによって発作が脳のどの部分で発生するかも分かるので、より細かい治療方針が立てられ、効果的な抗てんかん薬を選ぶことができるのです」

 久保田センター長は11年から50~60人の高齢者てんかんの患者(平均72歳)を治療してきたが、適切な薬を処方することで9割は確実に発作を抑える(寛解)ことができるという。

「ご家族が認知症と思ったら、高齢者てんかんの可能性も疑ってほしい。認知症の治療薬はありませんが、てんかんは薬で元に戻るのです」

▽1998年、山形大学医学部卒。米国クリーブランドクリニック・てんかんリサーチフェロー(2009~11年)を経て、東京女子医科大学付属病院「てんかん外来」担当(現在も兼務)。14年から現職。〈所属学会〉日本脳神経外科学会、日本てんかん学会、日本臨床神経生理学会など。

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