実録 父親がボケた

<3>排泄の失敗が増え…とうとう紙パンツをはかせることに

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 転倒する頻度もさることながら排泄の失敗も増えた。小便はもちろんのこと、大便もだ。その処理をするのはすべて母。ある日、大便を漏らした父。母によれば「羞恥心や罪悪感は一切なく、ヘラヘラと笑っていた」。2015年末のことだ。

 この頃から、千葉の実家のトイレが公衆便所のようなニオイになった。便器外にはみ出た尿を吸うパッドや消臭マットを使うも追いつかず。おまけに歯を磨けていないせいか、口臭も激化していく父。老化とはこういうものだと改めて痛感した。

 そして、とうとう紙パンツをはかせることに。要はオムツだが、介護の場合は紙パンツと呼ぶ。介護される側のプライドを保つためだとか。父も初めは嫌がったが、ここで活躍したのが姉である。姉は自ら紙パンツをはき、「うわー、これ快適だわぁ」と父に勧めた。

 父は姉が大好きだ。姉は父が生まれた土地に建てた別荘(小屋だけど)に1人で住んでいる。千葉の奥地で猿やイノシシが出るド田舎なのだが、父方の墓地の真ん前だ。姉を墓守娘と信頼しているのだろう。車で2時間かかる奥地から実家に駆けつけた姉が、父の尊厳を傷つけずにうまく勧めてくれたので素直にはいてくれたのだ。

 もうひとつ幸運なことがあった。両親の住むマンションに、地域包括センターの方が講演に来たという。「家族のことで不安な方は気軽にご相談ください」と言ってくれたらしい。父の糞尿と日々奮闘していた母は即行相談に行き介護認定を受けることになった。

 このステップになかなか踏み切れない人が多いと聞く。「うちはまだ大丈夫」「家族でなんとかする」……。日常に支障を来したら即行相談すべきだ。母はちゅうちょなく相談。そこはよかった。

 16年1月に出た判定結果は「要支援1」。もっとも軽いレベルだが、介護サービスを受けられるのだから、一歩前進だ。

 しかし、問題はその後に起きたのである。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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