実録 父親がボケた

<4>ボケてテレビ三昧 筋力低下で浴槽から出られなくなった

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ボケたのをいいことに、父のプライベートをさらけ出して銭に換える鬼畜の所業。それが私のなりわいである。父が嫌いなワケではない。むしろ好きだ。尊敬もしてきた。でも介護はしない。「ドクターX」の米倉涼子ではないが「一切いたしません」。介護はプロに任せるほうが父も快適だと考えている。

 そこに立ちはだかったのは、母の「昔気質の面倒見のよさ」だ。父の粗相は増え、日常生活でできることがどんどんなくなっていく。自力でやらせればいいことも、母が先回りしてやってしまうのだ。

 皿くらい下げさせればいいのに、母がさっさと片付ける。尿で濡れたズボンは手取り足取り着替えさせ、靴下までもはかせてやる。

 昭和初期の女はこれだから厄介。いや、諸悪の根源は昭和初期男だな。モーレツに働く代わりに、上げ膳据え膳で生きてきた甘えん坊将軍め。メシフロネル族の男は要注意だ。

 ソファにだらしなく腰掛け、日がなテレビを見るだけの父。ろくに運動もせず、3食&おやつに昼寝つき。父の腹部は「不思議の国のアリス」に出てくるハンプティー・ダンプティーのように膨れ上がり、体重は85キロを超えた。手足は細くなり、棒のように萎え、しかもむくみ始めている。

 そんな矢先、事件が起きた。父が浴槽から出られないという電話が来た。溺れたワケではないが、自力で立ち上がれない。85キロの巨体を母が1人で引き上げることもできず。私が助けに行くにしても1時間半はかかる。仕方なく救急車を呼ぶことになった。父の筋力低下は、恐るべき勢いで進んでいたのだ。

 実はその後も同様の状況になり、計3回救急車を呼んだ。うち1回は母が間違えて警察に電話して、「介護を苦に夫を殺害か」と疑われかけたこともある。

 これを聞き、姉と私は本格的な介入を決意。長年の過保護は人間から自立心と意欲を奪う。頑張ってきた母を責めるつもりはないが、昭和的な夫婦のあり方は悲劇の温床だと思った。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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