記憶や運動能力も良くなる? コーヒーの効果とメカニズム

最近はコーヒーで記憶力や運動能力が良くなるとの指摘も
最近はコーヒーで記憶力や運動能力が良くなるとの指摘も(C)日刊ゲンダイ

 昔から「○○は体にいい」という話があるが、少しくらい飲んだり、食べたりするくらいで本当に体が変化するのだろうか? あったとしても気分的な問題ではないのか? そう思う人も多いのではないか。そこで飲んだら眠気が消失し、頭痛などの痛みが治まるといわれるコーヒーで考えてみた。

 コーヒーを飲むと元気になることに人類で初めて気づいたのは、アフリカの羊飼いだという説がある。

 羊が赤い実を食べてはしゃぐのを見た羊飼いが試したところ効果テキメン。陽気になった。その評判を聞きつけた僧侶が夜の祈りの眠気覚ましに使うようになり、広まったという。

 これはあくまでも、あまたある説のひとつ。真偽は不明だが、昔からコーヒーには眠気を解消し痛みを止める効果があるといわれてきた。たかだか1杯、あるいは数杯のコーヒーを飲むことで体はどう変わるというのか? 薬剤師で日刊ゲンダイ好評連載コラム「役に立つオモシロ医学論文」の著者、青島周一氏が言う。

「コーヒーには多くの成分が含まれていますが、飲むと眠気が消えたり、頭痛が治ったりするのは、主に薬効成分であるカフェインが入っているからです。その量は1杯のコーヒーで180ミリグラム程度。カフェインは脳や腎臓などの細胞の表面にあるアデノシン受容体(AR)を阻害することで効果を発揮します」

 アデノシンとは遺伝子の本体となるDNA(デオキシリボ核酸)や遺伝情報の伝達やタンパク質の合成などに関わるRNAの材料であり、生命のエネルギー通貨と呼ばれるATP(アデノシン三リン酸)を構成する物質。細胞外にもわずかながら存在し、抑制性神経伝達物質として働く。

 細胞の表面にあるARに結合することで神経活動は安定化する。逆に結合が遮断されると神経細胞は興奮する。そのため、わずかな量であっても体に変化を与えることができるという。

 例えば、仕事や運動で脳が疲労するとエネルギー(ATP)代謝の残りカスとしてアデノシンが産出される。それが大脳基底核にあるARと結合すると、興奮や覚醒、快楽や不安などの情動が抑えられて眠気を催す。

「一方、カフェインの分子構造はこのアデノシンと似ているため、ARに結合することでアデノシンの作用を遮断する。間接的に興奮性神経伝達物質のグルタミン酸やドーパミンなどを放出させて、大脳基底核から線条体や大脳皮質に投射する神経回路を興奮させるのです」

■神経を抑制する物質を抑制する

 カフェインはさらに心臓や肝臓で「闘争・逃走」ホルモンであるアドレナリン系シグナル伝達経路を間接的に活性化して、脈拍を増大。筋肉を収縮させる。肝臓ではグリコーゲンを分解してグルコースを血中に放出するなどの作用がある。そのため、カフェインが体内に入ると元気になる。

 また、アデノシンは脳の中では血管を弛緩させて頭痛を起こす。カフェインはその作用を阻害するため、頭痛薬としても使われている。

「最近はコーヒーを飲むとカフェインの効果で記憶力や運動能力が良くなる、との可能性も指摘されてます。コーヒーは飲んですぐ効果が出るというのは、カフェインが人の体に吸収しやすいからでしょう。大人なら口から入って30分から2時間ほどで最高血中濃度に到達し、その量が半分になるまでに2~8時間程度かかります。しかも、脳幹なども容易に通過するため、全身に作用しやすいのです」

 コーヒーはお酒などと同じ嗜好品で、普通の食べ物と違ってすぐにおいしさを感じる。普通の食べ物は味覚や臭覚などの神経を経由して快楽神経を刺激するが、嗜好品に含まれる成分は薬理作用があり、脳の快楽神経を直接刺激するからだ。

 ならばコーヒーには依存性があるのか。

「確かに、コーヒーやカフェインを毎日のように飲んでいる人の中には、最後に飲んでから半日から数日経つと頭痛や疲労、眠気や集中力の低下を起こすことがあります。これはカフェイン離脱と呼ばれる症状です。症状が出る量も人によって千差万別であり、注意が必要かもしれません。麻薬などと違って、どんなことをしてでも飲みたい、という強い欲求もありませんが、やはり大事なのは適量を摂取するということでしょう」

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