天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

片頭痛の人は心臓疾患のリスク因子も抱えるケースが多い

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 片頭痛に悩まされている人は少なくありません。こめかみから目のあたりがズキンズキンと脈打つように痛み、ひどい場合は動くこともできずに寝込んでしまうほどつらい症状が表れます。

 原因はいくつか考えられていますが、血管を収縮させる作用がある神経伝達物質の「セロトニン」が関わっているといわれています。何らかの刺激や神経の炎症が誘因となってセロトニンの量が急減に変化することで、頭蓋内外の血管が過度に拡張して頭痛を起こすといわれています。

 痛みだけでも厄介ですが、片頭痛がある人は心臓疾患にかかるリスクが高いという報告があります。

 米国の研究グループが心血管疾患にかかったことがない女性看護師11万人を20年間にわたって追跡調査したところ、片頭痛があった人は、なかった人に比べて心臓疾患などの心血管疾患にかかったり、それで死亡するリスクが1.5倍だったといいます。一般女性を対象とした調査でも、片頭痛のある人は心血管疾患リスクが1.4倍、それによる死亡リスクは1・6倍に高まっていました。

 片頭痛が心血管疾患を引き起こしやすくなる理由についてはまだはっきり分かっていませんが、片頭痛の人は、肥満、高血圧、高コレステロールなどを併せ持っていることが関係しているのではないかと思われます。心血管疾患のリスク因子と重なっているのです。

 また、片頭痛は治療薬として血管収縮剤を使うため、血圧が上がったり下がったりする変動が多くなり、それだけ血管や心臓に負担がかかることも考えられます。

■治療薬も心臓に負担をかける

 さらに、片頭痛の人は「決めつけ型」の性格が比較的多い印象があります。せっかち、怒りっぽい、すぐにイライラする……といったタイプで、こうした性格の人は心臓疾患になりやすいという欧米の研究があります。そうでないタイプの人と比べると、男女とも狭心症や心筋梗塞を発症するリスクが2倍以上も高いという結果が出ているのです。

 片頭痛に悩んでいる人は、生活習慣を見直して肥満、高血圧、高コレステロールを改善することが、頭痛だけでなく心臓を守ることにつながるといえるでしょう。

 近年は、「卵円孔開存」という生まれつきの心臓の構造が、片頭痛と関わっているのではないかという見方もあります。心臓の右心房と左心房の間に小さな穴=卵円孔が開いている状態のことです。本来なら出生時に閉じるはずの卵円孔が、閉じないまま成長してしまったケースで、成人の15~20%が該当するといわれています。

 穴が大きくない場合は特に心配することはなく、多くの人は問題ありません。しかし、中には片頭痛の原因として疑われる場合があるといわれているのです。

 右心房と左心房の間に小さな穴があると、トイレでいきんだり、せき込んだりといったちょっとした拍子で血液が行き来することになります。つまり、全身から右心房に流れ込んだ静脈血と、肺で酸素を取り込んで左心房に入った動脈血が少量でも混ざってしまうということです。

 こうした“逆流”が頻繁に起こると、静脈内にある静脈血栓が左心房に流れ込んで左心室↓大動脈↓脳動脈と流れて奇異性脳梗塞を起こしたり、左心室から肺を通らずに脳動脈に達したセロトニンなどの頭痛の原因物質が片頭痛を引き起こすのではないかと考えられているのです。

 欧米では片頭痛の患者に対するカテーテル閉鎖術が行われているといいます。日本では、岡山大学が奇異性脳梗塞を起こした人の再発予防のために卵円孔開存のカテーテル閉鎖術を実施したところ、片頭痛のあった奇異性脳梗塞の患者19人のうち13人が術後に片頭痛が消失し、5人に顕著な改善が見られたと報告されています。

 卵円孔開存かどうかは心臓エコー検査で分かります。今後の研究で、卵円孔開存と片頭痛の関係がもっと詳しく解明されれば、心臓を治して頭痛を改善するという治療法が広まるかもしれません。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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