「昭和の撫子」として親しまれた女優・星由里子さんが旅立ちました。今年4月から5月にかけて不整脈の症状で検査を受けたところ、そこで肺に水がたまった痕があり、肺がんが発覚。緊急入院されていた京都市内の病院で息を引き取ったといいます。享年74。
「若大将シリーズ」のヒロイン役として大人気でしたから残念です。死因は肺がんと心房細動と報じられていますが、水がたまっていたことから肺がんによる「がん性胸膜炎」と推察されます。3月から新作映画の撮影に参加されたように元気だったところの訃報は、高齢社会の今、決して珍しくありません。
肺は、胸膜という袋で覆われています。風船の中に風船が入っている関係で、中の風船が肺のイメージです。中の風船と外側の風船との間が胸膜腔で、そこには健康な人でも肺の動きをスムーズにするため水が薄く広がって水分量は適正に保たれています。
ところが、肺の奥にできたがんが胸膜に浸潤し、炎症の拡大とともに水が増えると、その再吸収が十分でなくなり、胸膜腔にたまる水が増えるのです。それが、がん性胸膜炎です。
教科書的には、胸水で肺が圧迫されるため、呼吸が苦しくなったり、咳が出たり、動作時に息切れしたり、痛みが生じたりするのが主な症状ですが、水がたまっていても症状がないこともあります。
晩年まで仕事への意欲が旺盛だったようですから、星さんも自覚症状に乏しいケースです。がんは末期になるまで症状はあてにならず、元気だと思っていても早期発見には検診が大切なことが分かるでしょう。
がん性胸膜炎は肺がんのほか、乳がん、悪性リンパ腫に多く、この3つで全体の50%を占めています。たまった胸水の中には、がん細胞が含まれていて、それが心臓を包む膜に及んで炎症を起こせば、がん性心膜炎になり、今回の不整脈の原因にもなるのです。
胸水が大量なら、ドレーンという管で胸水を持続的に抜きます。繰り返し胸水がたまる方には、胸膜癒着術を行うこともあります。風船と風船の間を癒着させる薬剤で、水がたまるスペースをなくすのです。癒着術により、速やかに抗がん剤治療に取りかかることができることもあります。
肺がんには、いくつかのタイプがあり、胸水を起こしやすいのは、肺の奥にできる肺腺がんが典型的。肺腺がんは喫煙との関係が薄く、女性に多い肺がんとして、最近注目されていて、肺がん全体の6割近い。
歌舞伎役者の中村獅童さん(45)は昨年5月、毎年受けている人間ドックのエックス線検査で肺腺がんが見つかりました。「奇跡的といわれるほどの早期発見で、すぐに手術をすれば完治できる」と主治医に説明され、ホッとされた様子が伝えられています。エックス線検査なら自治体の肺がん検診で受けられますから、ぜひ受診してください。それが今回の教訓です。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁