実録 父親がボケた

<6>認知症進行で貯金おろせず泣く母 ドンパン節を歌う父

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 父と母は年金暮らしだ。父名義の口座から母が生活費を引き出す。一企業を長年勤めあげた父は、厚生年金と企業年金でそれなりの額を受け取っている。

 しかし2016年3月に父は銀行のカードをなくし、印鑑の場所や暗証番号も分からなくなった。父を銀行に連れて行くも、らちが明かない。母はとうとうキレてしまった。 

「しっかりしてよ! どんどん頭おかしくなってるじゃない!」

 すると父は「どーんどーんパァーンパーンどーんパァーンパーン」と、ドンパン節を歌ったのだ。もともとあまのじゃくというか、旅先の静寂かつ神聖な場所でわざと放屁するような困った男だった。でも家族を経済的な困窮に遭わせたことは一度もない。おそらく父はいつものようにふざけたのだ。ところが、生活費を下ろせなくなる恐怖と不安を抱えた母は、夫の不甲斐ない姿に愕然(がくぜん)とした。怒りを通り越して泣けてきたという。

 認知機能が低下し、生活に支障を来すのが認知症だ。銀行でお金を下ろせなくなったのは明らかに支障だ。姉から聞いた話では、高速道路で期限切れのクレジットカードを使おうとして渋滞を起こし、通行料金の値上げのせいだと狂ったように主張したこともあったという。姉は認知症専門医に見せたほうがいいと考えていたようだ。

 しかし今に至るまで、病院で認知症の検査は受けていない。検査にどれくらい意味があるのか、私には分からない。認知症と診断されても、特効薬があるわけでもない。父は降圧薬など5種も服用中なので、これ以上薬漬けにしたくない。

 検査を受けさせるべきだった?世の中はそんなにきっちり線引きしているの? 介護認定は早めに申請すべきだが、認知症と断定すべきかどうかはケース・バイ・ケースだと思う。

 つまり、父は正式には認知症ではない。自立不能な人と家族で認識した。それでいい。 

 ちなみに預貯金は無事で、母が全て管理することになった。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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