がんとは何か

<3>腫瘍ができにくいハダカデバネズミ

ハダカデバネズミ
ハダカデバネズミ(C)日刊ゲンダイ

 ゾウのようにがんになりにくい動物のメカニズムを研究することは、人のがん治療やがん予防につながる。その意味でいま、がん研究者の間で注目を集めているのがハダカデバネズミだ。

 アフリカに生息するネズミの一種で、体長は約8センチ。地面に掘った穴の中でほぼ一生を過ごす。最大300匹の集団で暮らす。その暮らし方もユニークでハチやアリのように1つの巣には1匹の女王ネズミがいて、女王だけが子供を産む。寿命が長く、通常のマウスの10倍近い、平均28年生きるといわれている。

 このネズミが研究者に注目される理由は、低酸素環境でも生きられることや生存期間8割以上で老化(活動量・繁殖能力・心血管機能の低下など)の兆候が見られなかったことにある。しかし、がん研究者にとって魅力的なことはハダカデバネズミは長い間飼育しても自発的ながんが見つからなかったという点にある。

 実際、観察された800匹には自発的な腫瘍は1匹もみられなかったと報告されている。

■寿命は通常マウスの10倍

 なぜハダカデバネズミががんにならないのか。詳細は分かっていないが、低酸素環境でも生きられることから有害な活性酸素暴露が少ないことが想定されたり、高齢になっても異常タンパク質の除去機構の能力が高く、タンパク質合成の正確性が高いことが分かっている。

 さらに、気になるのが細胞の接触阻害能力の高さだ。正常な細胞は隣の細胞と接触するようになると、細胞周期を停止して増殖を抑制する。しかし、がんになるとこの能力が失われ、無秩序に増殖し腫瘍を形成する。

 ところがハダカデバネズミは極端に低い細胞密度で早期接触阻害を起こす仕組みがあり、それががん化を防いでいる可能性があるという。

 しかもハダカデバネズミには肌の張りや弾力のもととなるコラーゲンやヒアルロン酸などを作り出す線維芽細胞が簡単にがんを作り出せないような仕組みを備えている。

 ハダカデバネズミ特有の高分子のヒアルロン酸分泌がこうした仕組みに関わっている可能性があることが最近の研究で分かってきている。

 高分子のヒアルロン酸は細胞周期を負に制御して、炎症を抑える機能があり、低分子ヒアルロン酸は逆の働きをする。ハダカデバネズミは高分子量のヒアルロン酸を多く発現することにより、がんになりにくく、老化しにくい体をつくっているのではないか、と考えられているのだ。

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