そろそろ梅雨入りだ。これから汗をかく機会が増え、肌トラブルを起こしやすくなる。多摩ガーデンクリニック・武藤美香院長に知っておくべきことを聞いた。
皮膚科・アレルギー専門医の武藤院長は乳児期にアトピー性皮膚炎を発症、中学の時に重症化した。転機が訪れたのが約25年前、信州大学医学生の時だ。
「適切な保湿で症状が抑えられたのです。今でも忙しくなると症状が出ますが、それほどではない。日々充実した生活は、保湿剤のおかげです」
汗のトラブル対策においても、保湿が非常に重要だ。
皮膚は表面から表皮、真皮、皮下組織で構成されている。表皮最上層に角層があり、健康な皮膚では角層にしっかり守られ、外部からの刺激が侵入しにくい。ところが乾燥した皮膚では角層細胞の配列が乱れ、角層細胞間の接着が低下し、バリアー機能が障害される。
「髪の毛が触れる、衣類が擦れる、下着の締め付け、細菌・ウイルス・真菌などの病原体、アレルゲンなどの外部からの刺激が表皮に侵入しやすくなります。それに対し、真皮からかゆみの神経が表皮側に伸びてきて、かゆみに過敏になります」
■「あせも」と思っていたら「汗かぶれ」
NTT東日本関東病院(当時)の渋谷紀子医師らが行った研究では、生後3カ月までに湿疹があった乳幼児は、なかった乳幼児に対し、アトピー性皮膚炎が約10倍、食物アレルギーが約20倍多かった。
また、国立成育医療研究センターの大矢幸弘医長らは保湿の重要性を証明。出生時から7カ月半適切な保湿を行うと、アトピー性皮膚炎や湿疹が3割以上減少した。
「皮膚バリアー機能障害は新たな皮膚トラブルを招きやすい。特に乳幼児の場合、生涯にわたるアレルギー体質につながるリスクが上がります。さらにアレルギー体質が重症化すると、感染(病原体)への免疫力や腫瘍(がん)に対する免疫力が低下することが分かっています」
保湿剤を含む基礎化粧品を日頃から活用している女性はもちろん、男性も冬は乾燥肌対策のために保湿剤を用いている人はいるだろう。ところが、夏は保湿剤を使わなくなる人が大半だ。
「汗の皮膚トラブルに悩んでいる人の多くに、ドライスキンによる皮膚バリアー機能障害が生じている可能性が考えられます。夏でも保湿剤の使用が必要です」
汗で皮膚がかゆくなると、すべて「あせも」と考えてしまいがちだが、実は違うケースがある。武藤院長は臨床経験上、「あせもより“汗かぶれ”がたくさんいるように感じる」と話す。
あせもは、急激な発汗時に、よごれ、皮脂、角層の配列の乱れが誘因となり、汗腺の表皮内導管が閉塞拡張し、表皮内に汗が染み出して炎症を起こす。症状は、汗腺の位置にできる赤いブツブツやかゆみだ。
一方、汗かぶれは、ふやけ、こすれ、乾燥などで角層のバリアーが弱くなった肌に、自分の汗腺から出た汗が再び染み込むことで起こる。ブツブツではなく、かゆみや赤みが面で広く起こる。
「汗かぶれの方が、皮膚のバリアー機能障害がひどく起こっている場合が珍しくない。“たかがかゆみ”などと思わず、特に繰り返すようなら、皮膚科を受診すべきです」
かゆみがある時、かく・叩く・つねる・熱いシャワーを当てる、などはNG。薄手のハンカチなどでくるんだ保冷剤で冷やすとかゆみの神経が鈍くなり、炎症自体も少し軽減する。かゆみがそれほどでもなければ、市販薬で対処するのも手だ。