がんと向き合い生きていく

「大自然に生かされている命の喜び」患者の言葉を実感した

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 しばらくしてから看護師さんが「診察室の外に置いてありました」と白い小さなビニールの袋を持ってきました。Gさんからの手紙とアスパラガスでした。

「けさ、家を出る時に、うちの畑のアスパラガスを10本摘んできました。持ってきてはいけないのは分かっているのですが、大自然に生かされている命の喜びは、摘んだばかりのアスパラを食べると分かるのです。先生に知ってほしいと思いました」

 私は看護師さんに、「困ったな。Gさんは帰ってしまって、もう返せないだろう。今日の僕は当直で家に帰れないし、あなたにあげるから持って帰ってくれる?」と渡しました。

 それから2週間後のことです。Gさんは急に痙攣が起こって救急車で緊急入院されました。

 意識がなく、CTスキャンを見ると、脳幹部という呼吸では最も大切な部分にがんが転移しています。緊急で放射線治療を開始しましたが、5日後には亡くなられてしまいました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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