天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓マッサージの重要性がさらに広まれば救える命は増える

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 倒れた人の呼吸が止まっていて酸素を取り込めない状態だったとしても、血液中の酸素がゼロになることはありません。あきらめずに心臓マッサージを続けて血流を維持すれば、脳に血液を送って低酸素状態を避けられますし、心臓の壊死も回避できます。

 心臓マッサージを行ったことで倒れた人の命が救われたケースはたくさんあります。中でも、一番有名なケースは「世界一の救命都市」と言われるアメリカのシアトルです。シアトルでは、「バイスタンダーCPR」(救急現場に居合わせた人による心肺蘇生)が市民にも広く浸透しています。1960年ごろから心臓突然死に対する救命処置の取り組みが実施され、1970年ごろには世界初となるバイスタンダー育成専門組織が設立されました。

 その後、小学校から救命講習が教育され、市民の救命講習受講率は60%を超えています。これにより、シアトルでの救命率は年間平均40%前後と劇的にアップしました。日本の心肺停止に対する救命率は2~8%ですから、驚異的な数字です。それだけ、心臓マッサージは救命にとって重要なのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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