Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

千葉大病院で発覚 がん情報引き継ぎミスはこうして起きる

小林麻央さん
小林麻央さん(C)日刊ゲンダイ

 なぜそんな見落としが……。そう思った人は、少なくないでしょう。

 千葉大医学部付属病院はCT画像にがんが写っていたのに、担当医が見落とし、患者9人ががんと診断されなかったと発表。そのうちがんで死亡した2人について、「最初の診断後に治療していれば、死亡しなかった可能性がある」とコメントしたのです。

 報道によると、亡くなったのは60代の女性と70代の男性。女性は2013年6月、腸の病気の経過観察でCT検査を受けたところ、放射線診断医は腎がんの可能性を指摘。その報告書は、担当医に送られたそうですが、十分確認されず、4年後の昨年10月に別の診療科で受けたCT検査で、進行している腎がんが見つかったといいます。

 男性は16年1月のCT検査で肺がんが指摘されたものの、担当医は報告書を見落としたため、翌17年4月に肺がんと診断されたそうです。2人とも治療の遅れで、2カ月後に亡くなっています。いずれも担当医が自分の専門分野のみに注目したことによる見落としで、千葉大病院は、診断の遅れと死亡の因果関係について「あったといわれれば、その通り」と語ったそうです。

 このような診断情報の引き継ぎミスは、あってはならないことですが、ゼロではありません。昨年1月には、東京慈恵医大でも同様のミスが発覚。CT検査での肺がんが見落とされたことが明らかになりました。

 なぜこのようなことが生じるかというと、大きな原因は分業体制にあります。検診などで異常が見つかったりすると、より精密な検査が行われます。主治医から依頼されるのは放射線診断医や病理医などです。そこで、がんなどが疑われると、リポートをまとめて依頼元の主治医に渡します。

 ところが、報告書ができるには、数日かかるため、主治医が内容を確認するのは、多くの場合、次の受診日です。見落としが病院側のミスなのは言うまでもありませんが、患者さんが来院しなかったり、主治医が代わったりすると、重要な診断情報が共有されず、診断結果が伝わらない可能性が生じるのです。


■小林麻央さんも診療忘れ

 では、患者として診断結果の伝達ミスを防ぎ、適切な治療を受けるにはどうするか。検査の結果はどんなことでも、リポートを受け取ることが大切です。血糖値や脂質など血液検査の結果は、受け取ることがほとんどでしょう。それと同じで、CTやMR、病理などの検査結果も必ず受け取るようにするのです。私は、次の診察まで間隔があくと、電話で検査結果を聞いてもらうように患者さんに伝えています。

 昨年、乳がんで亡くなった小林麻央さんは、医師の指示通りに受診するのを忘れたため、確定診断まで8カ月かかったことが報じられました。仕事などの都合で、受診を忘れることはありうるでしょう。ですから、電話確認という基本的なことが大切なのです。

 診断に疑問点があったら、患者さんが積極的に質問してください。3年前に大腸がんで亡くなった俳優の今井雅之さんは当初、近くの医院で「腸の風邪」と誤診されたことで、がんの発見が遅れました。診断結果に違和感があればセカンドオピニオンを求めること。もしがんのことなら、同じ診療科の別の病院ではなく、放射線科医に尋ねるのがセオリーです。放射線科医は全てのがん治療に精通していますから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事