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0期でも正解率98% 血液1滴でがん13種類が早期発見できる

加藤健医長
加藤健医長(提供写真)
国立がん研究センター中央病院・消化器官内科 加藤健医長

 国立がん研究センターで「次世代がん診断システム」の臨床研究が進められている。たった1滴の血液で13種類のがんが早期発見できるという画期的なものだ。免疫チェックポイント阻害薬の効果予測も可能という。

 同センター研究所・分子細胞治療研究分野(落谷孝広主任分野長)が開発した技術で、加藤健医長(顔写真)は臨床サイドを取りまとめる責任者。研究の目的をこう語る。

「日本のがん検診率は3割程度と非常に低い。検診率を上げるには、より侵襲が少なく、精度の高い検査が求められています。また、簡便な検査で一度に複数のがんが分かれば、医療費コストも削減できます。がん検診の最初に行うスクリーニングとして、エビデンスのはっきりした法定健診として使える検査を目指しています」

 同検査で分かるのは、「胃」「食道」「肺」「肝臓」「胆道」「膵臓」「大腸」「前立腺」「膀胱」「卵巣」「乳房」「肉腫」「神経膠腫」に、できるがん。血液中にある「マイクロRNA(リボ核酸)」を調べる手法を用いて検査する。

 マイクロRNAは体中の細胞が分泌している微小な核酸の一種で、細胞間の情報伝達を担っている。

 人体内には約2600種類のマイクロRNAがあるが、がん細胞が発生すると、がん種によって異なるマイクロRNAの放出量が増加する。その量を調べることでがん種が分かるのだ。

「がん細胞が壊れたり、転移したりするときに血中に放出される物質もありますが、それらはがんがある程度大きくならないと出ないといわれています。マイクロRNAは、がん細胞が生きていく上で能動的に放出されるので、微少ながんでも検出できる。ステージ0期の超早期でも98%の確率で判別できます」

 大腸がんでいえば、最も精度が高いとされる便潜血検査の感度は70%程度。腸は長いので出血が奥の方(右側)の場合、精度が落ちるからだ。

 それがマイクロRNAの検査では、盲腸から横行結腸までの感度が99・0%、下行結腸から直腸までの感度は99・6%という。部位に関係なく高い精度で判定できるのだ。

■尿や唾液による検査も研究

 マイクロRNAは約2600種類のすべてを調べる必要はなく、1つのがん種当たり3~5種類程度で調べている。

 ただし、これまではバイオバンクのサンプルを使って研究していたので、血液の保存期間が3~5年と長かった。年月が経つと血中のマイクロRNAが減る。

 そのため、昨年9月から新鮮な血液でデータを取ろうと、患者から採血した早い時点で分析をする前向きな臨床研究を始めている。

「最終的な目標は、この技術を用いて企業に検査キットを作ってもらい、安価で検査が受けられるようにすることです。それには、消化器がん、泌尿器がん、肺がんなど、部位に分けた検査も考えていて、こちらも臨床研究を始めています」

 マイクロRNAは血液だけでなく、尿や唾液などにも含まれるという。次世代のがん検診に期待したい。

▽1995年産業医科大学医学部卒後、九州大学大学院医学系研究院修了。04年から国立がん研究センター中央病院・消化管内科に勤務し、12年に医長、15年からバイオバンク・トランスレーショナルリサーチ支援室・室長を兼務。〈所属学会〉日本内科学会、日本臨床腫瘍学会、日本食道学会

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