クスリと正しく付き合う

「音程」がきっちり半音だけ下がる副作用がある

服用開始後数日で発症し中止すると回復
服用開始後数日で発症し中止すると回復(C)日刊ゲンダイ

 以前、「薬剤性難聴」という副作用について取り上げました。副作用は可逆的で薬をやめたら治る(元に戻る)ものが多いのですが、それでも治らない不可逆性難聴という重篤な副作用が起こるケースを紹介しました。

 同じ聴覚に関係する副作用として、難聴ではなく「聴覚異常」というものがあります。聴覚異常にはさまざまな“異常”が含まれていて、難聴(聴力低下)も広義では該当しますし、他には耳鳴りや聴覚過敏などが挙げられます。そして「音程の変化」もそうした異常に含まれます。

 薬の副作用による音程の変化は、「テグレトール」(成分名=カルバマゼピン)という薬で報告されています。テグレトールは、てんかんのけいれん発作を抑えたり、躁状態の興奮を抑えたり、三叉神経痛の痛みを抑えたりする目的で用いられる薬です。

 この薬の副作用として報告されている音程の変化は、「音が実際より低く聴こえてしまう」というものです。音楽家ら普段から音楽に接する機会が多い人であれば、すぐに変化に気づくかもしれませんが、そうした機会が少ない人は、気づきにくい副作用といえるでしょう。

 テグレトールによる音程の変化は、血中濃度(体内の薬の濃度)とは相関がなく、可逆的な一過性の症状で、服用初期に見られる不耐症と考えられています。実際、これまでの報告では、服用開始後数日で発症していて、中止すると回復しています。継続しても数週間で症状が緩和している症例もあり、音程の下がり方がきっちり半音下がる人もいるというから不思議です。

 いずれにせよ、治る副作用で違和感を覚える程度ですので、いたずらに不安になる必要はありません。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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