がんと向き合い生きていく

「心の中で一緒に生きている」若くして子供を亡くした親はそう心に決めて生きていく

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 死者は両親、家族、友達の中で生き続けます。残された人は、残された親は「心の中で生きている。一緒に生きている」と自分を納得させ、無理やりかもしれませんが、そう心に決めて生きるのです。そうしないと生きていけないかもしれないのです。

 いとうせいこうさんは、「想像ラジオ」(東日本大震災で亡くなった人たちの声を集めた小説)の中で、「死者を思うことで、私たちは死者に心を支えてもらっている」と書いています。

 私の親戚で、若くして子に死なれた母親がいます。信仰はしていないのですが、その時以来、毎日毎日、小さな食膳をつくり仏壇にささげます。仏壇の前に正座して子に話しかけます。その時はきっと子に会えているのだと思います。母親にとって仏壇は、命と同じく大切なものなのです。母親は「きっと、きっと天国では子に会える」と期待しています。

 私は「死後の世界なんて存在しない。心は残っても、すべてなくなってしまう。それで仕方ない」と思っています。しかし、若くして子に死なれた親には、わが子との再会を果たすために、死後の世界は、どうしてもなくてはならないのだとも思うのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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