死者は両親、家族、友達の中で生き続けます。残された人は、残された親は「心の中で生きている。一緒に生きている」と自分を納得させ、無理やりかもしれませんが、そう心に決めて生きるのです。そうしないと生きていけないかもしれないのです。
いとうせいこうさんは、「想像ラジオ」(東日本大震災で亡くなった人たちの声を集めた小説)の中で、「死者を思うことで、私たちは死者に心を支えてもらっている」と書いています。
私の親戚で、若くして子に死なれた母親がいます。信仰はしていないのですが、その時以来、毎日毎日、小さな食膳をつくり仏壇にささげます。仏壇の前に正座して子に話しかけます。その時はきっと子に会えているのだと思います。母親にとって仏壇は、命と同じく大切なものなのです。母親は「きっと、きっと天国では子に会える」と期待しています。
私は「死後の世界なんて存在しない。心は残っても、すべてなくなってしまう。それで仕方ない」と思っています。しかし、若くして子に死なれた親には、わが子との再会を果たすために、死後の世界は、どうしてもなくてはならないのだとも思うのです。
がんと向き合い生きていく