天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

今のままでは日本で心臓外科医の「空洞化」が起こる

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 一方、米国も全体的には高齢化が進んでいるとはいえ人口が多く、いまだに子供がたくさん生まれています。それだけ患者の数が多いので、思う存分、腕を振るってみたいという若手にとってはやりがいがあります。さらに米国では、自分が「これはいい」と思った医療機器を早い段階から使えるケースがほとんどです。日本では新たな医療機器が厚労省に承認され、実際に臨床現場で使用できるようになるまで何年もかかるケースは珍しくありません。

 米国でもFDA(食品医薬品局)の承認が必要ですが、日本に比べるとはるかに早く認められて“デバイスラグ”がほとんどありません。最先端の機器を駆使した医療を早い段階で経験して実績を上げたいと考える若手医師にとっては大きな魅力といえます。

 日本の心臓外科の“体質”も、若手医師のモチベーションを下げる一因になっていると考えられます。どの世界でもそうでしょうが、一定以上の実力があり、社会の中での位置付けがしっかりしていて、さらに人望などが重なって、初めて周囲から信用されるものです。しかし、今の日本の心臓外科の環境は、「あいつはこんなことをやっているから、われわれの仲間には入れない」といった“村社会”のような体質がはびこっているのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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