Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

相次ぐがんのリスク調査 日本人は糖尿病と痩せ過ぎが危険

北斗晶さんは乳がんを克服
北斗晶さんは乳がんを克服(C)日刊ゲンダイ

 食べっぷりがいい人は見ていて気持ちがいいものです。その点でいうと、乳がんを克服したタレントの北斗晶さんもスゴイ。

 ブログによると、今月24日の夕飯は、アジの干物、野菜と牛肉の甘味噌炒め、タケノコと厚揚げの煮物、キュウリとイクラのサラダにご飯と味噌汁という豪華版です。

「ダメダメな私」というタイトルで投稿した26日は、キャベツとニラ、モヤシを加えることで、夜中にラーメンを食べることの罪の意識を打ち消しています。その翌朝は、山芋と納豆、オクラに山盛りのシラスをプラスしたトリプルネバネバを中心に、トマト、タケノコと厚揚げの煮物をおかずにご飯と味噌汁です。

 タレントになられる前は体が資本のレスラーですから、お見事というほかない食欲でしょう。しかし、ことがんに関しては、ひょっとすると旺盛な食欲に伴う肥満が原因のひとつだったかもしれません。日本人を対象にした疫学研究で、肥満の人は乳がん、大腸がん、肝臓がんのリスクが高くなることが分かっているのです。

 そんな中、国立がん研究センターは子宮体がんと肥満度について調査。その結果、肥満度が27を超えると、子宮体がんのリスクが有意に上昇することが明らかになりました。肥満度は体重を身長で2回割った数値で、日本は22が標準、25未満が健康目標です。

 がんと肥満に密接な関係があるのは事実でしょう。昨年末に海外の研究チームが発表したデータによると、男性の肝臓がんは23・3%、子宮体がんは38・4%が肥満や糖尿病に起因すると推計。この割合は2035年にそれぞれ34・3%、47・9%に上昇すると予測しています。

 肥満ががんを助長することは明らかですが、特に強い関係が認められる肥満度30超は、欧米ならともかく日本人ではまれです。ネットで拾える数値で計算すると、北斗さんの肥満度は24・8。今回の子宮体がんの調査では、基準となる「肥満度23以上25未満」に含まれますから。

 そこで、注意したいのは糖尿病と痩せ過ぎのリスクです。世界的には、がんへの影響度は肥満が糖尿病の約2倍ですが、日本を含むアジア地域の解析では、男女とも逆転します。糖尿病が肥満を上回るのです。

 糖尿病の人とその予備群はそれぞれ約1000万人に上ります。そういう人は、血糖値を下げるインスリンが分泌されにくかったり、インスリンが効きにくかったりする「インスリン抵抗性」が背景にあるのです。

 インスリンはがん細胞の増殖を促す作用があって、インスリン抵抗性で血中にインスリンがたくさんある状態が続くと、がんのリスクが高くなると考えられます。ですから、糖尿病の人は高インスリン血症の有無を確認しておくことです。

 もうひとつ、痩せについては、「肥満度19未満」の痩せ過ぎが、男女ともがん死亡リスクが最も高く、男性の場合、「23以上25未満」に比べて約2倍です。最もよかったのが「25以上27未満」の小太りでした。

 小太りまでよしなら、気が楽でしょうが、糖尿病の治療は忘れずに。糖尿病が疑われる人でも、そのうち4割は治療を受けていませんから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事