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10分で1リットル処理 「難治性腹水」世界初の効果的治療法

松崎佳祐院長
松崎佳祐院長(提供写真)
松﨑圭祐院長 要 第2クリニック・腹水治療センター(東京・豊島区)

 がんや肝臓病などで、おなか(腹腔)に大量の体液がたまってしまう「腹水」。おなかがパンパンに膨れ臓器が圧迫されることで、強い膨満感や息苦しさ、食欲低下、便秘、尿量低下などに苦しめられる。特にがん性腹水では抗がん剤治療の中止につながり、がん終末期として医師に見放されてしまうことが多い。それは、現在のがん医療では「腹水を抜くと体が弱る」というのが常識で、打つ手がないからだ。

 しかし、その常識を覆し、世界で初めて難治性腹水の効果的な治療法(KM―CART)を生み出したのが松﨑圭祐院長(顔写真)。一般的に行われている単に腹水を抜くだけの処置(腹水ドレナージ)の限界をこう話す。

「腹水を大量に抜くと、腎不全やショックなどのリスクが高まります。それに腹水にはがん細胞や細菌などの“悪者”だけでなく、免疫に関わるグロブリンやアルブミンなど体を維持するのに必要不可欠な物質も大量に含まれています。少量でも繰り返し抜くと、これらの免疫物質や栄養が失われ、急速に体力が低下し、さらに腹水がたまりやすくなる悪循環を招くのです」

 国内では難治性腹水の治療法として、1981年に「腹水ろ過濃縮再静注法(CART)」が認可(保険適用)されている。患者から抜いた腹水をろ過器によってがん細胞や細菌、血球、フィブリンなどを除去し、次に濃縮器で余分な水分や電解質を取り除き、アルブミンなどの有用な物質の濃縮液を作る。それを点滴静注で患者へ戻すという治療法だ。

 ところが欠点が多い。回路と操作が複雑。がん性腹水では細胞や粘液成分が多く、2~3リットルでろ過膜が詰まって処理できない。ローラーポンプでしごいて無理やりろ過するので、過度な刺激がかかり炎症物質が増加してしまい、濃縮液を患者に戻すと高熱が出る。これらの理由から、90年ごろには「CARTはがん性腹水には使えない」と評価されてしまったという。

■大量に腹水が抜けると見違えるほど元気に

 このCARTのシステムを改良し、問題点を解消させたのがKM―CART。以前の心臓外科時代に「体外循環とろ過膜」を研究していたからこそ実現できたという。

 ろ過膜の方式を変更し、目詰まりを取る洗浄機能を追加。専用のポンプ装置を不要にし、汎用のポンプと吸引器を使用している。装置を単純化したので、誰でも簡単に操作できる。これらの改良で、がん性腹水を大量に早く処理することが可能になったのだ。

「従来法では1リットルの腹水を処理するのに1時間近くかかっていましたが、KM―CARTでは10分です。全量抜いていて、1人平均7~8リットル程度。中には1回に27リットル抜いた患者さんもいます。大量に腹水が抜けると、臓器の働きが回復し、食事も取れるようになるので、患者さんは見違えるほど元気になります」

 乳がんで腹水が9リットルたまっていた女性が治療をして4日後にゴルフに出掛けたケースもあったという。

 松﨑院長が09年から行ってきた治療数は約6000例(うち3割は肝性腹水)に上る。掲げる目標は「全世界から“腹水難民”をなくすこと」。「CART研究会」を立ち上げ、いまでは全国50施設ほどでKM―CARTによる治療が受けられるという。「腹水を抜くと体が元気になる」が新常識になりつつある。

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