実録 父親がボケた

<11>月額利用料が安めの特養…あまりに粗末な食事に愕然

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新設の特別養護老人ホームに入所できることになった父。しかも多床室(4人部屋)ではなく個室だ。これで月額約18万円。厚生年金と企業年金でまかなえる範囲だ。もし父が私のようなフリーランスで国民年金だけだったら、無理である。会社員の恩恵を享受。

 その前に、施設と金にまつわる紆余曲折を振り返ろう。施設の完成・入所まで1カ月強あったので、ひとまず父をショートステイ専用の特養に送った。1日4000円、最長で30日間滞在できる。

 その特養は、頻繁にカラオケや体操などのレクリエーションを催し、利用者を飽きさせない優良施設だった。職員もベテランが多く、優しくてケアが上手な外国人介護士もいた。

 ただ、初めて訪れた時は正直、衝撃を受けた。食堂に30人以上の老人たちが集っている。何をするでもない。ひとりでしゃべりたおす女性もいれば、目がうつろでかろうじて呼吸している男性もいる。父と同室の男性は寝たきりで、常に口をもぐもぐと動かしている。プラスチックの器に盛られた粗末な食事を見たときは「ムショ飯かよ!」と心の中で叫んでしまった。

 月額利用料が低めの特養はこういう世界なのかと愕然とした。もっと他の施設があるのではないかと考えた。

 すでに母が口座管理をしていたので、父の経済状況を把握するのは楽だった。通信販売やカード会社など、無駄に年会費を取られるものは全て退会。父の収入額と預金に多少余裕があると踏んだ私は、有料ホームの資料を取り寄せまくった。

 豪華なパンフレットが次々届く。好立地に立派な建物、サービス内容も充実と美辞麗句の嵐だ。しかしよく読むとオプション項目が多く、月額30万円超え必至。地獄の沙汰だけでなく、現世の介護も金次第だ。「豪奢な施設にいる石原慎太郎は一体いくら払ってるんだ!」と赤の他人と世を呪う。それでも百聞は一見にしかず。母の家から近い4軒の施設を見学することになった。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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