正社員で働く発達障害の人々

「発達障害の診断に“やっぱり”と納得する気持ちでした」

篠聡志さん
篠聡志さん(提供写真)

 23歳だった篠聡志さん(東京都在住)が発達障害と診断されたのは、2013年1月、東京・渋谷にある橋本クリニックでのことだった。

 橋本クリニックは、発達障害の診断に力を入れている診療所で、児童精神科、精神科、心療内科が専門だ。

 これまでの経緯を聞かれる問診や、WAIS―Ⅲという成人知能検査の結果を考慮して下された。医師から病名を告げられたとき「やっぱりそうだったか、と納得するような気持ちでした」と篠さんは振り返る。

「あまりよくない意味で自分は他の人とはずれているのではないかと、それまでずっと感じていましたから。発達障害という言葉はよく耳にしていたので、自分もこれではないかと思っていたのです」

 発達障害とは、生まれつきの脳の不具合のために、周囲とうまく適応できない状態を指すもので、その特性によって、自閉症スペクトラム、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害などに分けられる。最近では社会に出てから周囲との違和感を覚える「大人の発達障害」も注目されている。篠さんの場合、診断を受けるきっかけとなったのは、大学卒業後に就職した介護施設での仕事がうまくいかず、9カ月で退職したことだった。

「介護施設では、高齢者に対して、ほかのスタッフがしているようにうまく話しかけることができませんでした。仕事で分からないことがあっても、どのように先輩に聞いていいか分からないんです」

■大学卒業後に就職した介護施設は9カ月で退職

 入浴の介助をしていて、一度教わったはずなのに分からないことが出てくるときがある。そばに先輩や上司はいないし、いても忙しそうで、いつ聞いていいのか分からない。結局、不安なまま仕事をこなし続けるしかなかったと篠さんは話す。

「結局、ほかのスタッフともうまくいかず、叱責されることも増えていって。気分が落ち込むことが多くなり、退職してしまったんです」

 退職後、周囲とうまく合わせることができないのは、自分が発達障害だからなのではと考えた篠さん。最初に訪れたのは、東京都世田谷区にある、東京都発達障害者支援センター(TOSCA)。同センターでは、都内に住んでいる発達障害者やその家族に対し、相談支援や関係機関の紹介を無料で行っている。そこで紹介されたのが、冒頭の橋本クリニックだった。

 いつ急変するか分からない高齢者の体調に対し、臨機応変に対応しなければいけない介護施設の仕事は、発達障害の自分には向いてなかったと思った篠さん。次の就職先は、障害の特性に合わせた配慮がある会社にすべきだと考えた。そんなとき、橋本クリニックの医師に紹介されたのが、就労移行支援事業所㈱「Kaien」。就労移行支援事業所とは、さまざまな障害のある人に対し、企業への就職を目指して訓練を施す施設である。

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