大学卒業後、就職した介護施設での仕事がうまくいかずに退職。その後発達障害という診断を受けた篠聡志さん(29歳)。実は自分と周囲とのズレは、小学校時代から感じていたという。
時折かんしゃくを起こすと止まらなくなる一方で、標本など、生物の世界に興味があり、生物学者になりたいとも考えていた。
「中学は受験して私立の中高一貫校に進みました。ここでは友達もいて、いつも同じメンバーと一緒にいられるので、それほど困ることはなかったんです。それでも、高校のときには、自分はどうやって生きていけばいいのか、という漠然とした悩みを抱いて、一時期不登校になったこともありました」
学校に戻ってからは、哲学に対する興味を抱き、哲学史などの本を読むように。大学も、哲学科を受験して合格。現役で進学した。
「ところが、大学ではまったく友達ができなくて。サークルも入ってはみたものの馴染めないので、すぐ辞めてしまいました。大学ではいつもひとりのいわゆる“ぼっち”生活を送っていました」
高校と違って、明確なクラスのない大学では、うまく居場所をつくることができず、孤立してしまう学生も多い。学食などでもひとりでいる。そのような学生を、若い世代では“ぼっち”と呼んだりする。
「卒論は、自分と周囲のズレについて哲学的に考察して書こうと思ったのですが、どう進めたらいいか、教授に聞くこともできませんでした。結局、提出できずに、大学を留年してしまったのです」
■卒論も就職活動も進め方が分からなかった
留年後にゼミに入ったが、指導教授が入院してしまい、きちんとした卒論指導は受けられずじまい。それでもなんとか卒論を提出して、卒業はできたものの、就職は決まっていなかった。
「就職活動をどうやったらいいか、まったく分からず、何もしていなかったんです」
現在の就職活動は、就活サイトを中心に進められ、早めのインターンも常態化しており、そのシステムは複雑を極める。高度なコミュニケーションスキルと情報収集力を求められるため、どこから手をつけたらよいか分からず、始める前から挫折する学生も多い。篠さんも例外ではなかった。
「結局、学生時代からボランティアをしていた介護施設に就職することに決め、介護の資格も取りました。でも、その介護施設での仕事もうまくいかなかった」
介護施設のボランティアは、大学で人と接することのない生活を送っていた篠さんを見かねて、母親が知り合いの施設を紹介してくれたものだった。デイサービスのスタッフとして、レクリエーションや食事の介護を担当していたが、同僚や上司とのコミュニケーションがうまくいかず、9カ月で退職してしまう。
正社員で働く発達障害の人々