正社員で働く発達障害の人々

「雑談には無理に加わらなくてもいいと、言われラクに」

篠聡志さん
篠聡志さん(提供写真)

 介護施設の仕事を退職後、クリニックで発達障害という診断を受けた篠聡志さん(29歳)。次の就職を目指して通うことにしたのは、就労移行支援事業所㈱「Kaien」だった。

「その存在は、クリニックに紹介されて初めて知りました」

 就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づき、2年の期限つきで、企業への就職を目指した訓練をする施設。障害者手帳を持っていたり、精神障害や発達障害の診断書を医師からもらうことで、利用できる。なかでもKaienは発達障害者に特化した支援に定評があり、首都圏を中心に9カ所の直営事業所を展開している。

 もっとも、篠さんの場合は発達障害の診断を受けたのが2013年の1月。3月にKaienの説明会に行ったが、そのときは定員に達していて入所できず。9月まで待機の状態になった。その6カ月の間は、ワードやエクセルの参考書を買ってきてパソコンの勉強をしたほか、ウオーキングなどの運動を心がけた。

「入所したKaienでは、疑似的なオフィス環境がつくられていて、上司役のスタッフからいろいろな仕事を指示されました。データ入力や、音声の文字起こし、課題を与えられてネットで調べ、パワーポイントで資料を作って発表する、といった訓練もありました」

■履歴書の書き方も長所も教えてくれた

 そのほか、ビジネスマナーや電話対応の仕方、報告・連絡・相談のいわゆる「報連相」についても詳しく教わった。なかでも、篠さんにとって役立ったのは、雑談についてのレクチャーだった。

「私は雑談が苦手で、職場でも話の輪にうまく入ることができず、そのことがとても苦痛でした。ところが、Kaienでは、職場は仕事をするところだから、仕事と関係のない雑談には無理に加わらなくてもいい、ということを教えてくれたんです。それを聞いて、ずいぶん気持ちがラクになりました」

 Kaienの訓練は週5日、朝9時から16時まで行われた。通所開始から3カ月ほど過ぎると、就職活動を開始。Kaienに寄せられている求人に応募したり、合同面接会に参加した。現在、障害者雇用促進法という法律で一定の規模以上の会社は、従業員数のうち2.2%の障害者を雇用しなければならないことになっており、どの会社も積極的に障害者雇用に取り組んでいる。この時点で障害者手帳を取得していた篠さんが選んだのも、障害者枠での就労だった。

「大学を卒業するときも就職活動をしなかったので、すべて初めての経験。特に困ったのは、履歴書の作成でした。自分の長所は何か分からず、スタッフさんに『私の長所って何でしょう』と聞いたんです」

 スタッフが教えてくれた長所は「ちゃんと毎日来れて、勤怠が安定しているところ。そして、たくさんのことを一気にやるのは難しくても、ひとつひとつならしっかり業務をこなせることですね」だった。うれしかった。

(つづく)

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