正社員で働く発達障害の人々

「やってきたことは必要な流れ。今後は長く勤めたい」

篠聡志さん
篠聡志さん(提供写真)

 就労移行支援事業所㈱「Kaien」の訓練生となった篠さんが、就職活動を開始したのは、2013年の12月から。内定が出る前までには、10社ほど不採用を経験した。そんななか、実習まで進むことができたのが、大東建託の子会社であった、大東ビジネスセンター(現在、大東コーポレートサービスと合併)だった。

 面接に立ち会ったのが、現在、大東コーポレートサービスの雇用推進室次長を務めている辻庸介さんだ。辻さんは、面接での篠さんについてこう回想する。

「印象的だったのは、土日には哲学書をよく読んでいます、という篠さんの話でした。休日のリフレッシュ法を持っているかどうかは、仕事を長く続ける上で大切な要素なので、好印象でしたね」

 面接の合格者は、5日間の実習で実際に仕事を行う。ここでは、指示された仕事をきちんとできるかどうか、手順が分からないときに、教わるアクションを起こせるかどうかが、採用の決め手となった。実習後の面接を経て、篠さんは晴れて大東ビジネスセンターに内定する。篠さんが入社時の仕事について振り返る。

「会社に届くメール便の仕分けの作業が初めての仕事でした。社員の座席表を見ながら、分からないことはその都度、課長に聞いて、宛先の机に届けました。最初に指導にあたってくれた課長は、その後、定年退職してしまったのですが、『篠さんなら大丈夫。やっていけるよ』と言ってくれて。うれしかったですね」

■後輩も指導するベテラン社員に

 2016年には合併に伴い、篠さんも大東コーポレートサービスの所属に。その際に、アルバイトから正社員へと昇格した。大東コーポレートサービスは、障害者の雇用を推進することで、親会社の法定雇用率に算定できる、いわゆる「特例子会社」だ。

 いまや、篠さんはベテラン社員として、後輩も指導する立場に。

 特に顧客との契約書などをスキャニングする業務では、会社で一番の正確さと速さを誇る。篠さんの直属の上司である、中山広太郎課長も「篠さんはとても真面目な性格で、吸収力も高い」と、太鼓判を押す。

 後輩に分かりやすく仕事を教えるために、篠さんはパソコンで自作のマニュアルも作成。通勤のため朝6時前には起きるので、午後は疲れてしまうこともあるが、そういうときは昼休みのほか、午後3時に10分間ある休憩時間に、休憩スペースでひと休みする。

 そのほか、書類のファイリングや、本社の社員の経費請求書のチェックといった業務も行っている。休日には演劇の市民サークルでの活動もしている。6月末には役者として公演にも参加した。

「回り道をしたようにも見えますが、振り返ればいままでやってきたことは、全部必要な流れだったように思います。これからも健康を維持して、いまの会社に長く勤めるのが目標ですね」

 発達障害という自分の特性を知り、それに合った職場を見つけることで、篠さんの能力は開花したのである。

(この項おわり)

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