実録 父親がボケた

<12>施設の母体は新興宗教 表情暗く雰囲気はまるで収容所

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 老人ホームの実態を見慣れていない私は、特養の雰囲気に気おされた。でもそれは特養に限ったことではない、と見学して気づいた。

 パンフレットで美辞麗句を並べる有料老人ホームでも、「この世の果て」みたいな施設はある。見学した中に1軒、入り口に立った途端、冷気を感じて鳥肌が立つ施設があった。利用者の顔もことごとく暗くて怖い。まるで収容所の雰囲気だ。後で知ったが、そこは新興宗教が母体の企業が経営する施設だった。

 もちろん、明るくて活気のある施設もあった。スタッフも利用者も笑顔の割合が多い。営業担当者も親身に話を聞いてくれて、こまめに電話で空き状況やら料金改定を知らせてくれる。ただ、そんなに空き部屋が出ることと、頻繁に料金が上がるのは不安なんだけど……。

 大手企業の施設だったが、後に介護職の知人に聞いた話では「離職率と利用料値上げが頻繁すぎるワースト施設」とのこと。亡くなるから空きが出るのだと思っていたが、利用料を払えずに退所する人も実際には多いのだ。

 認知症専門のグループホームやサービス付き高齢者住宅も見学したが、いずれも父には合わないと肌で感じた。

 たった4軒の見学でも肌で感じるものがある。見えてくるものもあった。経済的な壁だ。要するに、月額20万円以上の壁は越えられなかった。父だけでなく母の生活もある。母の心穏やかな老後を考えると、やはり特養がベストな選択肢だと悟る。

 決してきれいごとは書かない。施設選びは1に金、2にスタッフ(ソフト)、3に設備や立地(ハード)だ。入所しないと見えないことも多い。しかも、スタッフなんて流動的だ。介護施設が常に職員を募集しているのを見れば、入れ替わりの激しさを推して知るべし。

 さて、父が入る特養はどうか。事前に見学したが、とにかくきれい。入所者がまだいないから当然だ。担当者は明るくて、このうえなく軽い。そこは救いだった。重苦しい人だったら逆に不安になるよ。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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